第22話 お姫様の目を覚ますために必要なのは、王子様の……
儀式の間、そう呼ばれる部屋の中に入る。
おそらくここがダンジョンの最深部だ。
「儀式の間か。床いっぱいに、魔方陣が描かれている」
それほど広い部屋ではない。
その中心にいるのは——。
「「マエリス!」」
僕は魔方陣の真ん中に駆け寄った。
マエリスを抱き起こす。
「すぅ……すぅ」
マエリスは静かに息をしていて、胸が上下している。
眠っているだけのように見えた。
「マエリス……マエリス!」
「うう……ん……リィト……」
目覚めそうだ。
外傷も見られず、肌着だけではあるが乱れもない。
白い肌に傷一つついていない。
僕は、ほっと安心した。
「うん、マエリスは無事みたいね。よかった」
「はい。あとは目を覚ませばいいのですが」
「はあ、リィト君。こういうときはどうやって目を覚ましてあげるのか、知ってる?」
「えっと? 顔に水をかけるとか」
「リィト君さぁ、拷問じゃないんだから——」
カトレーヌさんは大げさにため息をついた。
「——王子様の甘い口づけに決まっているでしょう!!」
すごく得意げに言っている割には根拠はなさそうだ。
本当に意味があるのなら、僕はマエリスにならしてもかまわないけど。
自分が王子様なのだろうか。
「しょうもないこと言ってないで、カトレーヌさんも起こすの手伝ってくださいよ」
「リィトくんさあ、そういうところはちょっと——」
そのとき、別の声が割り込む。
何者かの気配が部屋に入ってきたことを感じる。
「これはこれは、皆さんお揃いでありんすね」
突然、深く響く女性の声が聞こえた。
カトレーヌさんよりずっと落ち着いた、低い女の人の声。
「聖女殿に、
声の方を見ると、そこには騎士のボリス、そしてグスタフに魔法使いのような服装をした女性がいた。
だが、その女性は無表情で……顔が殴られたように腫れている。
声はボリスの口から出ているけど……様子がおかしいな。
彼からは黒いオーラのようなものが見える。
カトレーヌさんが庇うように僕らの前に立つ。
「あなた、王国騎士のボリスでしょう? 何のつもり? しかも私を無視してくれちゃって」
「主さんには用はありんせん」
ボリスが手を振ると、カトレーヌさんが突然胸を押さえ、血を吐き出した。
カトレーヌさんの体に蛇のような入れ墨のような黒い線が入っていく。
「ボリス! 一体何を?」
ボリスは、いや、ボリスの身に乗り移った何かは、僕らを無視するようにチコに話しかける。
「グリッチ=コード。こちらに来なんし」
「…………はい。マスター」
は?
チコ?
チコの瞳から光が消え、深い黒色になっている。
その瞳からは、涙がこぼれていた。
「リィト……行きたくない……帰りたくない……助けて」
まるで僕に懇願するように……小さく、彼女の口が動く。
「チコ? どうした? 行くな!」
「チ……チコちゃん……駄目!」
僕らの制止も聞かず、チコはまっすぐボリスの元に歩いて行く。
「主さんたちは、あちきの子とどういう関係なんでありんすか?」
「あんたの子? まさか?」
「ははぁ、まさかコレが人間だとでも思いんした? コレは——形こそ人間に似せてやすけど——」
「やだ……やめて……」
チコから、言葉にならない声が伝わってくる。
「残念、コレは、単に魔法が実体化したモノでありんすよ。単なるモノ! 単なる魔法! 主さんのような人間ではありんせん」
その瞬間、黒い光がチコから放たれる。
黒い光は、深い絶望が可視化したもののようにも思えた。
「はい、これで終了でありんす。人間じゃないなら、主さんにとってどうでもようござりんすよね?」
ボリスの顔はチコの絶望を満足げに受け止め、にやりとしている。
——僕は素直に聞き返す。
「全くわからないから教えてくれ」
「いいでありんしょう」
「それが何か? それがどうした? チコ、嫌なら行くな。行かないでくれ」
まるで勝ち誇ったような表情をしているボリスに対して、純粋な疑問をぶつける。
すると——。
「はい?」
一瞬にして、その勝ち誇った表情が崩れ去ったのだった。
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