第34話 立ち向かう意思(1) 〜VS 勇者候補 グスタフ 魔王〜

 現れた勇者候補は、何者かに操られているようにも見える。

 カトレーヌさんともう一人の女の子を恐ろしい形相で襲おうとしているようだ。



「リィト、どうする?」



 マエリスが聞いてきた。


 このまま隠れていれば、やり過ごせそうだ。

 でも……カトレーヌさんと、魔法使いのギナという女の子は負傷している様子。


 このまま見捨てることはできない。


 正面切って勇者と戦うのは大変だけど。

 やるしかない。

 それに、あの黒いオーラは見覚えがある。


 多分、以前地下のダンジョンで遭遇した魔王だ。

 自称だけど。

 


「戦おう」


「「はい!」」



 使える魔法を確認しておこう。


 リィト、使える魔法は以下の通りだよ。

 全てグリッチ可能。


 ■火属性

 【発火イグニッション

 ■水属性

 【水生成クリエイトウォーター


 ■風属性

 【ウインド

 ■無属性

 【ミラー

 【百発百中トゥルーストライク

 【小奇跡ソーマタージ

 【識別アイデンティファイ

 【清浄化パージ】(グリッチで聖属性)

 【伝言メッセージ

 【軽修理メンディング】(グリッチで土属性)

 【ライト

 【食料生成クリエイトフード


 』



 僕は先頭を切って、カトレーヌさんらとグスタフの間に割って入る。



「カトレーヌさん、僕たちが戦います。どこかに隠れて!」


「う、うん!」


「先制攻撃! 【発火イグニッション】」『グリッチ=コード!』



 火の玉が、グスタフを襲う。

 しかし、まったく効かなかった。



「対策されているのか、そもそも魔法が効かないのか?」


「おや。リィトじゃないか?」


「ああ。グスタフ、どうした? その体は」



 勇者候補の体中から、黒いオーラが湧き出ている。



「グスタフ、魔王に憑依されたか? あのボリスと同じように」


「ハッ。俺様がそんな間抜けなことになると思ったのか?」


「何?」


「アイツの力を、俺様が吸収したのさ」



 彼の腕に描かれた魔方陣から、黒い煙のオーラが立ち上っている。



「リィト、お前のことはずっと気に食わなかった。ここで、お前を殺して、マエリスをいただく」


「いやよ……リィトが負けるはずない! 」



 剣を抜き僕に対して構えるグスタフ。

 剣聖スキルを使うつもりなのだろう。



「【剣聖】!」



 グスタフのスキルが起動。

 さすがに、マトモに剣を受けるのはマズイ。



「【ミラー】!」『グリッチ=コード!』


「遅い! オラァッ!」



 グスタフがニヤリとして僕の姿に向けて剣を振る。

 しかし、それは空を切った。


 スカッ。


「はっ?」



 魔法で生成された鏡に写った僕の像が一つ消え、代わりにグスタフの周りに、数十もの僕の姿が現れた。

 よし、これで少し時間が稼げるだろう。


 グスタフは、目に映るニセモノと本物の区別が付かないようだ。

 僕ら、マエリスとチコは少し距離をとった。



「クソっ、どうなっている?」



 グスタフが焦り出す。

 いくら、僕の姿を切っても、次々と鏡像——僕の姿が増えていく。


 もしかして、アイツ一生このまま続けるつもりなのか?


 しかし、そう思ったのも束の間。



「はあ、主さんは、なにをしているのでありんすか?」



 以前聞いた、魔王の声が聞こえた。

 女性の艶のある声だ。



「任せておくんなんし……【魔法解呪ディスペルマジック】」



 呪文を唱える声が聞こえたと思ったら、すぐに発動し、全ての鏡像が消え去った。



「ひさしぶりでありんすね。グリッチ=コード使いに、聖女殿、そして……《グリッチ=コード》」



 グスタフの中の魔王は、そう言ってチコを見つめた。



「《グリッチ=コード》。こちらに来なんし」



 しかし前回と違い、チコはにらみ返す。

 彼女は、強い意志を持ち、まったく怯んでいないように見えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る