第35話 立ち向かう意思(2) 〜VS 勇者候補 グスタフ 魔王〜
「いやッ!」
魔王の呼びかけを、チコは拒否する。
「親に向かってその態度はなんでありんすか?」
「わたしは……もう、あなたの娘でもなんでもない! わたしは、リィトとマエリスの——」
しかし、彼女はそこで言葉を止めた。
マエリスが、彼女の言葉を拾う。
「チコ——うん、あなたさえよければ。いいのよ」
「ああ、僕も構わないさ」
彼女は一瞬きょとんとして僕らを見た。
すると、少し口元が緩み……すぐに元の凜とした表情に戻る。
「もう、わたしは、あなたと何の関係も無い!」
「はぁ、やはりもっと強い躾が必要でありんすね」
魔王が、チコに向けて手をかざす。
前回は、これで【誓約】の呪いがかかってしまった。
しかし——。
パリンとガラスが割れるような音がして、魔王が狼狽える。
「ど、どうして、あちきの呪いが効かねえの?」
「リィトとマエリスに貰った力が——わたしを守ってくれる」
チコが着ている服が、呪いを弾いている。
「リィト、ここには土がある!」
「【
『グリッチ=コード レベル2、軽修理から
ゴゴゴゴゴ。
地響きと共に、地面のあちこちが、ボコッと盛り上がり、そこから……土人形が現れた。
それらは集合し、もっと大きな土人形を形成していく。
土人形はやたら素早い動きで、魔王となったグスタフとの距離を詰める。
「くっ……《グリッチ=コード》ッ!」
緩慢な動きで巨大な土人形の動きを躱す魔王だが、それも叶わず、振り下ろされる腕の攻撃が直撃した。
「グッ——はっ」
グスタフの様子がおかしい。
今はグスタフ自身の男の声に戻っている。
取り込んだとか言ってたけど、もしかして意識の奪い合いをしているようだ。
「【
グスタフの魔法……勇者魔法だ。
幸い、最高度の魔法ではない。
「私を忘れないで! 【
キィィィィィィィン!
マエリスが結界を張ってくれる。
ありがたい。
魔法で僕らは負ける気はしなかった。
グスタフの剣技系スキルだけ気をつけよう。
僕はさっきから、グスタフから湧き出る黒い炎が気になっていた。
これは……僕の予想が正しければ、不死者が放つ死のオーラだ。
前回、魔王とボリス戦ったときに見えていた。
だとしたら。
アレをやってみよう。
僕がマエリスに合図を送ろうとしたとき——。
「【
グスタフの指先から、巨大な燃えさかる岩が飛んでくる。
だが、これくらいマエリスの結界があれば耐えられる。
そう思ったのだけど、チコの様子がおかしい。
「い……いや……」
マエリスが、「大丈夫大丈夫……」と彼女を抱き締めた。
異常な怯え方をしているチコを見ていると不安になり、僕は土人形を盾として呼び寄せた。
バァァァァァンンン——ゴゴゴゴゴゴ。
なんとか、土人形と結界を犠牲としつつも、耐えることができた。
そろそろ決着を付けた方が良いだろう。
僕は、マエリスに目で合図を送った。
二人で同時に魔法を打ち、グリッチを行う。
多分、これで勝てる。
僕の魔法と、マエリスのごく一般的な聖女魔法。
「クソッ。【剣聖】【加速】!」
グスタフも勝負に決めて来るようだ。
僕は、チコとマエリスと手を繫ぎ、共に呪文を唱えた。
「【
「【
「《グリッチ=コード》!」
『聖女魔法の【大治癒】をグリッチし、集団魔法化するよ! 広範囲集団魔法に変化したよ』
『【小奇跡】をグリッチするね。【大治癒】の威力の増強に使うよ! 【
チコの声が震え始めている。
『……それを超えて……えっ? 【
『周囲全域……この廃墟の範囲内にいる全員に……【死者蘇生】の……魔……法を』
チコの声が、震えている。
こんなことは今までなかった。
「《レイズ・デッド》だ……と? 超古代魔法じゃ……ない……か……そんな……奇跡……があり」
グスタフも声を震わせている。
僕が「YES」と答える前に、魔法の発動が起きている。
空と地面に見渡す限り、光り輝く魔方陣が現れていた。
色とりどりの線で描かれた巨大な魔方陣は廃墟や地面を彩り、いつか見た祭りの景色を思い出す。
「やめ……! 《レイズ・デッド》など……食らったら、あちきは絶対に……ほろ……ぶ」
剣聖スキルも中断され、グスタフは天地に描かれる魔方陣を見て目を見開き、動けなくなっている。
チコの震える声が……その、喜びと戸惑いと期待が合わさった複雑な心の声が、俺の頭に響く。
『【
「YES!!」
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