第36話 最終話 とても嬉しかったし、とてもぽかぽかしてた。


「【超広範囲集団・死者蘇生Raise Dead】!!!」



 呪文が発動した。

 桁違いの威力の魔法なのか視界が光の渦に包まれていく。



「ギャアアアアアアア! こ……こんなデタラメな魔法……」



 元々グスタフが支配下に入れていたという魔王は、アンデッドなど闇の属性が強かったのだろう。

 だから回復魔法が逆転しダメージとなる。



 しかも、それが【死者蘇生】ともなると、呪いも残すことなく消え去ってしまう。

 気がつけば、たくさんの光の粒を残してグスタフの体は消滅してしまったのだった。



「これ……もしかして、村の人たちが生き返る……?」



 マエリスが期待の眼差しで僕を見た。

 どうなのだろう?

 そんな奇跡……本当にあるのだろうか?


 僕は、ちょっと期待する。



「うっ……うっ……」



 泣き声がする方を見るとチコが号泣していた。



「チコ! どうした? もしかして怪我でも?」


「う……ううん……わ……わた」



 何かを言おうとしているけど、言葉にならないようだ。



「チコ——」



 マエリスがそっとチコを抱き締める。



「大丈夫、大丈夫だよ」


「う……うん」



 チコが次第に落ち着く頃には、天地に現れていた魔方陣が少しづつ消え始めていた。



 ————



 しばらくして、周囲は完全に元に戻った。


 しかし、カトレーヌさんらと合流して廃墟を探しても蘇生した人をみつけられなかった。

 グスタフと魔王が消え去ったわけだから確かに魔法自体は起動したのだろうけど……。


 復活に時間がかかるのかもしれない。

 そう結論づけ僕たちが一旦、帰ろうとした時。



 チコが唐突に言った。



「やっぱり、そうだよね……。どうしても願いを叶えてもらわないとダメだよね」



 少しだけ震える弱々しい声。



「ん? どうした? チコ?」



 僕は、チコに問いかけると、瞳に涙を浮かべ彼女は言った。



「リィト、マエリス。今までありがとう。もう、さよならしなきゃ」


「は? 何言ってるんだ?」


「そうよ。どういうこと? もうチコを狙う奴はいなくなったんだから。安心して——」



 チコは、ううん、そうじゃないのと、悲しげに言う。



「最初から決めてたの。だから、ね……でもね、リィトとマエリスはすぐ忘れちゃうし……そんな顔して悲しまなくても……いいの」


「は? 忘れる? バカなことを言うな」


「そうよ!」



 しかし、チコに僕たちの声は届かない。

 今までになく、頑なに僕らのことを拒否し続ける。



「今まで……。今までね、リィトはずっと優しくて。マエリスもわたしのことを大切に思ってくれて……嬉しかった。だからね、だからこそ……わたしは自分が許せない。いてはいけないの」


「チコ……何を言ってるんだ? さっきから一体何を?」


「ごめんね。でもね大丈夫。すぐわたしのことを忘れちゃうから。最初からいなかったみたいに」



 チコは、頑なだった。

 自らの涙を指で掬い、諦めたような表情で僕らを見る。



「少しの時間だけど、とても楽しかったし……とても嬉しかったし、とてもぽかぽかしてた。リィト、マエリス——」



 僕はチコが何を言おうとしているのか、どういうわけか察してしまった。

 間違いなくもう会えなくなる。



「——ずっと仲良くね…………大好きだよ——」



 僕たちの言葉を待たずに、チコはくるっと向こう側を向き、



「【願……いwish……】」



 大きな息をつき、か細く震える声で……聞いたこともない呪文を唱えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る