第09話 女の子に鑑定魔法を使った結果……

 

「レベルアップで何か新しい魔法が頭の中に浮かんでくる——」

「リィト、おめでとう!」

「あ、ありがとう」



 少女コードは嬉しそうに僕を祝福してくれる。

 さっそく「呪文一覧」を頭の中に思い描いた。

 反則呪術グリッチ=コードがサポートしてくれる。



  現在使用できる魔法は以下の通りです。


 【発火イグニッション

 【水生成クリエイトウォーター

 【清浄化パージ

 【伝言メッセージ

 【軽修理メンディング

 【ライト

 【食料生成クリエイトフード

 』


 ……うん。見事なまでに生活魔法ばかりだ。

 だけど、反則呪術グリッチ=コードによってとんでもない威力になるとしたら、いろいろできそうだ。



「【食料生成クリエイトフード】だけど……もしこれを【水生成クリエイトウォーター】のように人に使ったら……人から食料が……?」



 僕はブルブルと頭を振り、ヤバい想像を頭から追い出した。

 いくらなんでも、そんなグリッチは無いだろう。

 たぶん。




  以下の呪文を新しく使用できます


 【百発百中トゥルーストライク】(新規!)


 【小奇跡ソーマタージ】(新規!)


 【識別アイデンティファイ】(新規! グリッチ可能)

 



 三つも覚えるとは。

 これがグリッチ=コードの力なのか?

 それに、はじめて戦闘向けの呪文を覚えたな。

 あと、小奇跡って小さな奇跡、幸運?



「うん。その魔法は、ちょっとした奇跡を起こせるよ!」



 なるほど。……そのまんまか。

 っていうか少女コードは魔法のことに詳しいんだな……。

 奇跡というくらいだから、いざというときに使うといいのだろう。


 そして。


 【識別アイデンティファイ】。


 この魔法はアイテムの鑑定などが行えるものだ。

 ふつうは鑑定士にお金を払って鑑定してもらう。


 そういえば、マエリスとお揃いの指輪があった。

 正直、これをいつ誰に貰ったのか僕もマエリスも覚えていないし、お金を払って調べるほどでもないと思っていた。

 早速鑑定してみよう。



「【識別】!」



 するとすぐにその結果が分かる。



 鑑定結果

 名前:マエリスとお揃いの指輪

 材質:不明。

 効果:一度失敗したことを、なかったことにできる。

 残り使用回数:1回

 』



 なんと。

 長年謎だった指輪の価値が分かってしまった。

 これはスキルや魔法の失敗を一回、なかったことにできるものらしい。

 そして、使い切りのアイテムだったとは。

 まあ、お守り代わりにずっと持っておくのもいいだろう。



 なんとなく楽しくなった僕は、アリナを手招きする。

 何? と近づいてくるアリナ。



「アリナ、何か鑑定してほしいものある?」

「急に言われても……鑑定ってアレでしょ? 価値を見るってやつ」

「うん」

「じゃあ、あたしを鑑定してみて?」

「え? これは人には使えないはずだけど」

「そうなの? ダメ元で!」



 何が嬉しいのかよく分からないけど、アリナは僕の前でくるっと回った。

 どうせ失敗するだろうと思い、手をかざす。

 子供達や傭兵の人たちが、僕らを興味深そうにみつめていた。



「【識別】!」



 人には使えないはずだが……しかし——。



『【識別】の解析を実行——成功しました。反則強化グリッチを行いますか?』

「は? YES!」



  しまった。ついクセでYESって言ってしまった。



『強化を実行。希望する鑑定内容を思い浮かべてください』

「追加のって……何だ?」



 僕はアリナを見つめた。

 そういえば、少し離れている間に、実に可愛らしく成長してるな。

 ……などと考えたのが、よろしくなかった。



 鑑定結果

 名前:アリナ=フェルスター

 年齢:14

 性別:女性

 身長:155

 体重:46

  ……』



 僕の頭の中に、アリナの鑑定結果スペックが読み上げられる。



「ちょ、ちょ……。これって……?」

「え? リィト? 何か分かったの?」

「あ、う……うん」

「教えて!」

「えーっとね……」



 言い淀む僕の気持ちなど知らず、頭の中にはアリナの私的な情報プライバシーが、無慈悲に流れ続けた。



 以下、追加情報になります。


 バストウエストヒップ : 79:55:81

 キスした経験回数:0

 異性とお付き合いした回数:0

 ……  

 』



「ちょちょ、ストップストップ!」

『残念だけど鑑定を停止しました!』



 慌てて中断した。

 誰だ。

 あんな鑑定内容を希望したのは——。



「なんかリィト、あたしを見る目が……」

「あ、ご、ごめん!」



 しかしだ。

 僕はあんなことを知りたいと願ったはずはないのだが……。たぶん。



「まあいいけど、それで何がわかった?」

「性別とか、年齢とか……体重とか」

「も……もう! 他は良いけど体重は忘れて!」



 なんとかその場を収め、追加で何を鑑定したのかバレずに済んだのだった——。



 僕はその後正体を探ろうと、少女コードに鑑定魔法をかけたのだが、彼女にはどうやっても【識別】の魔法は通らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る