第三章 願い
第27話 王女殿下の謝罪
魔王が倒され、僕たちは王国——ブラード王国が用意した馬車で、出発の準備をしていた。
僕らは身だしなみを整えると、馬車に乗り込む。
「いやー、リィト君、助かった。さすがね、ありがとう」
「【清浄化】のレベル2グリッチは呪いを解除する……呪いという魔法を体から
「呪いね……」
カトレーヌさんは僕の左側にぴったりくっついて座った。
「チコちゃんも【誓約】解いてもらってよかったね!」
「うん! リィト、ありがとう!」
右側にはチコが座る。
チコは少し遠慮していたようだけど、僕らの態度が変わらないのを感じ安心したようだ。
正面には、ふくれ面をしたマエリスがいた。
「どうせ、私は、【解呪】の魔法はまだ未習得ですよー」
「もう、拗ねんなって」
「拗ねてなんかないわよ……」
「ふぅ……。まあ、落ち着いたら、三人でパーティ組もうな」
「えっ? うん、そうよね! それならっ!」
急にニコニコし始めるマエリス。
僕は、それを見て不安になった。
ちょろい。
変な男に騙されないように、よく見張っておく必要がありそうだ。
そして、その隣におわすのは——。
「ボリスの謀反……聖女の誘拐に、わたくしの暗殺計画まで——」
我がブラード王国のレナ王女殿下だ。
豪華で威厳があって、キラキラしたドレスを身につけていらっしゃる。
初めてお目にかかったのだけど、住む世界が違うなあと改めて感じさせられた。
「お姫さま!」
チコも興味深そうにしている。
「それで、魔王は、勇者候補のグスタフ殿が倒されたと」
「まあ、殆どリィト君が倒したようなものですけどね」
カトレーヌさんが伝える。
グスタフもボリスの指示に従っていたことを伝えておく。
ただ、騙されたと主張する可能性も高い。
勇者候補は貴重であるので、そう簡単に処罰は下されないかもしれない。
「事情は、だいたい把握いたしました」
レナ姫殿下は、僕の手を取った。
「その、これからどうされるのでしょう?」
「どうって……、そうですね、あまり考えておりませんが」
ちらりとマエリスとチコを見る。
「もし許されるなら、マエリスとチコと一緒にパーティを組めたらと」
「なるほど。問題ありませんし、今後王国直属のパーティとして依頼を受けて頂ければと」
「ぼ、僕らがですか?」
「はい。まさか、あなたが追放されていたとは思わず……申しわけありませんでした」
姫殿下が謝罪をした。
どうやら、僕が王国外に出てしまうことを心配していたようだ。
まだまだ強くなれそうだし、報酬も間違い無いわけだから、王国の依頼をこなすのも悪くないかもしれない。
それに、あの魔王があんなに簡単に滅んだとも思えない。
必ずチコを奪いに来るはずだ。
「いえいえ、僕は大丈夫です」
「寛大な配慮、ありがとうございます、では、これから王都へ——」
王女殿下が出発の号令をかけようとした、その時。
「リィト様、リィト様ですね!」
見かけない色の馬車がやってきて僕が乗っている馬車の隣に止まった。
紋章を見ると、どうやら隣のアルハーデン王国のものだ。
馬車から飛び降りた女の子が駆け寄ってくる。
護衛の兵士が、それを阻止しようとするが、あっけなく突破。
これまた豪華なドレス姿の女の子だけど、こっちはお転婆というか、めっちゃ活発な印象。
ドレスが破れないのか心配だ。
護衛は連れていない。
彼女は隣国、アルハーデン王国の王女様のようだ。
「リィト殿、もしよろしければ、我が国に、アルハーデン王国にお越し願えないでしょうか?」
「何を。リィト殿はこれからわたくしどもの、ブラード王国王都へ向かわれるのです」
「あなた……ブラード王国の王女様ね。ロクに廃墟の管理も、孤児院の街の支援もしていないくせに」
なんとなく噂は聞いていた。
事実だったのか。
「この地域はブラード王国領です。アルハーデンが口出すことではありません。さあ、リィト殿、出発を——」
「冗談じゃないわ! また、そう言って呼び寄せておきながら追放するのでしょう!」
「なぜそれをっ。そ、そんなわけ——」
「リィト殿、アルハーデン王国は、そのようなこといたしません。それに、もしいらっしゃるのなら、マエリス殿には聖女の、爵位を」
「ポンポンとそのように爵位を授与するなど……」
「リィト殿! それに……何より、アルハーデンには、グリッチ=コードに関する文献がございます」
「そんな眉唾な話——さあ、リィト殿! 出発を!」
あれほど上品だったレナ王女殿下が、やってきたアルハーデンのお姫様に掴みかかる。
僕たちの前で、つかみ合いの喧嘩が始まってしまったのだった。
「マエリスとチコはどっちがいい?」
「「リィトについていく!」」
「お、おう」
僕としては、《グリッチ=コード》の文献があるというアルハーデン王国の方に興味があった。
それに——。
「ブラード王女殿下、申し訳ありませんが……僕は
「え……そそそ、そんな」
一瞬にして狼狽える姫殿下。
「きゃっ! 本当? もうずっとアルハーデンに住まない?」
「うーん、僕はやっぱり、孤児院がある街がいいですし」
「なるほど。じゃあ、あの廃墟と街がある領土を
「ちょっと、今聞き捨てならない発言が聞こえたような気がしましたが?」
正直なところ、辺境だからと関心がないブラード王国より、廃墟の管理や孤児院への寄付などをしてくれるアルハーデンに属した方が、街としても幸せなのでは……と思った。
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