第26話 勇者候補に迫る破滅 〜VS 魔王〜


「リィト……脅威度A級のスカルドラゴンを倒した……!」

「うん。すごいな、マエリス」

「ううん、グリッチこれはリィトの力なんでしょう? すごいのは、リィトよ」

「いや、これはチコの——」


 といいかけたところで、チコがそうじゃないと首を振る。

 力を引き出せたのは、僕のおかげだと言うように。


 僕は、チコの頭を撫でてあげた。



『経験値を獲得——グリッチの対象が増えた』



 チコの声が聞こえた。 


 

 魔王は、この状況に驚いている。


 恐らく、ヤツの力はまだ完全じゃないのだろう。

 憑依した体にも満足していないようだ。



「以前、チコに【誓約ギアス】の魔法……呪いがかかっていた。また今、チコに【誓約】がかけられている。これが躾だと? ふざけるな……」



 チコは、ニコニコしてるが、以前と違い、今は僕に助けを求めている。


 一つ、僕には確信めいたことがある。

 多分、僕の生活魔法の一つは、この魔王に効く。



「【清浄化パージ】!」

『【清浄化】の魔法を解析するね……成功したよ。反則強化グリッチ——レベル2を——実行する?」

「YES!」

『レベル2グリッチ——成功したよ。標的を選択して!」



 僕は、魔王を指し示す。



「ぐ、あっ。主さん……やめ……」



 突然苦しみはじめる魔王。


 【水生成】よりも確実に効き目があると思い、【清浄化】を使う。

 それなりのダメージが与えられるだろう。


 尋常じゃない苦しみ方を見ると、もう一発【清浄化】を使えば止めになりそうだ。

 僕は、もう一度発動しようと構えつつも、少し考える。



「ぬ、主さん——コレチコは、まだ秘密がある。その正体は——」



 チコがくれたもの……優しい笑顔に僕は力づけられてきた。

 彼女が何者であるのか、些細な問題だ。



「チコ、倒したらダメか?」



 チコは、首を横に振る。

 娘とか言っているが、チコにとっては、呪いなんぞを使ってくる相手だ。


 倒しても構わないだろう。

 でも、本当に今倒して良いのか……?


 いや、今のままではダメだ——僕の中で警報が鳴り響く。



 その時、魔王に迫る別の影があった。



「くっ。魔王とは——今まで俺を騙して……」



 ワンテンポ遅いグスタフ。

 彼は剣を抜いて迫る。

 イマイチ不自然な気もするけど、本当に騙されていたのなら、この行動もあり得るかもしれない。



「【剣聖】スキル発動!」



 グスタフは、魔王に迫っていく。

 不自然さを覚えつつも、その様子を見守ろうとすると、チコの声が頭に響いた。



『【剣聖】スキルの起動を感じたけど、どうする? グリッチする? それとも——』

「No!!」



 反射的にNoと答えてしまった。

 今、魔王を倒すのが本当に正解なのか、まだ分からない。



「グスタフ、待て! まだ聞きたいことが! それに、そいつを直接倒してはダメだ」

「お前の指図など受けん!」

「話を聞け!」



 【水生成】で足止めする暇もなく、僕の制止を振り切りグスタフは魔王に剣を突き立てた。

 腐っても勇者候補だ。

 持っている武器も、聖属性の魔力を帯びたものなのだろう。



 魔王はゆっくり倒れると、その体が灰のように粉々になっていく。

 僕には——顔が崩れる寸前に、一瞬ニヤついたようにも見えた。



 倒れているカトレーヌさんを見る。

 彼女の肌に広がっていく黒い痣——。

 チコにかけられた【誓約】。

 アンデッド生成も広義では死者を操る呪いの一つとも言える。



 そうだ。

 この魔王の本質は呪いなのだ。


 自らの死と引き換えに強力な呪いを発動するなんて良くある話だ。

 僕は粉々になり、宙に舞っていく灰をしばらく見つめていた。



 ————



「リィト、片付いたみたいだし、帰ろ?」

「そうだな」



 僕たちは、三人で手を繫いで帰ろうとするのだが……。



「ちょっと! ほのぼのしちゃって、アタシを忘れてない?」



 僕はすっかり、魔王の術で動けなくなったカトレーヌさんのことを忘れかけていたのだった。


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