第31話 王女殿下に招かれて


「いらっしゃい、リィト殿にマエリス殿、そしてチコ殿」


「「失礼します」」



 僕たちは、グリッチコードの文献を読むため、王女殿下の自室にお邪魔していた。

 その部屋は、僕に与えられた部屋より質素にも見えた。



「あら、マエリス殿の聖女着もチコ殿の服も、とても可愛らしい」


「はい——リィトにお願いしたら、このように大変かわいく仕立てて貰えたんです」



 マエリスは本当に嬉しそうに、服を見つめて言った。



「なるほど、これが生活魔法ですか……素敵ですわ。リィト殿、もしよければ、わたくしに生活魔法を見せていただくことはできたりしませんか?」


「はあ……僕は構いません……【清浄化パージ】!」



 僕は殿下に向かって、魔法を唱える。

 女性なら、この魔法はまちがいなく喜んでもらえる。

 

 魔法が発動し、彼女の全身に魔法の泡が現れた。



「あぁっ……あぁ、こ……これは……気持ちよいですね」


「はい、みなさそう仰られます」



 殿下は泡が消えると、クンクンと全身を嗅ぎ始めた。

 その様子は、おおよそ姫らしくなく……親しみを感じる。



「あっ、失礼しました……素晴らしい魔法ですね」


「あまり見られたことがないのですか?」


「はい。この国の者で生活魔法を使える者はかなり珍しいのです。魔法は、皆が使えるのですが」



 そう言って、彼女は耳を出した。

 帽子をかぶっていらっしゃったのだけど、それを取り露わになった耳は上を向いて尖っている。



「エルフ——」



 僕はつい、言ってしまってから慌てて口を押さえた。



「はい。わたくしは……この国の王族は、殆どがエルフなのです。とはいえ、普段は人間に偽装しているのですが」


「なるほど。存じ上げませんでした」



 王女殿下は「さて」と言って一冊の本を壁際の本棚から撮りだし、僕たちが座っている椅子の前のテーブルに置いた。



「これが、グリッチ=コードについて書かれた古い書物です」



 本には、見たことのない文字が描かれている。

 まったく読めなかった。



「なんと書いてあるのですか?」


「私どもも、この文字は殆ど読めず今解読をしているところなのです。そのおかげで一部解読が出来た部分があります」



 すると、王女殿下は目をつぶり、ぽつりぽつりと喋った。



「反則たる呪術の根源は、古の都にあり」

「反則たる呪術の骨身は、空の都にあり」



 どういう意味だろう?

 このグリッチ=コードの、力の源がどこかの……古都にある?



「その言葉と共に描かれているのが、この……魔方陣なのです。この魔方陣自体が、古の都を指しているようなのですが……」



 そう言って王女殿下は、書物のページを指さした。

 そこには円形の魔方陣が描かれている。



「もしかして——」



 僕は、一つ気になっていた呪文があった。

 今までグリッチをしたことがない魔法の一つ【伝言メッセージ】。


 この魔法を使えば読めない文字が読めるとか、書物に何か変化が現れるではないだろうか?

 まあ、予想がハズレていても不都合はない。



「【伝言メッセージ】!」『グリッチ!』 

『【伝言】を解析するね——成功! |反則強化グリッチする?』

「YES!!」

「成功したよ!」

 


 呪文が適用され、本が光り輝く。

 そして、近くの床が輝き始める。


 そこに現れたのは——。



「「「転移魔方陣!!」」」



 皆がびっくりして、床に現れた転移魔方陣を見つめた。

 円形のそれは、わずかに光を放っている。



「こんな仕掛けがあったなんて、驚きです」


「ええ。試してみるものですね」


「今のが、《グリッチ=コード》なのですね?」


「はい。一旦通常の魔法を唱えてそれを反則強化グリッチする形で使います。どうやら、それ以外のこともできるようですが、今は強化のみです」


「これからも楽しみですね」


「はい!」


「それで、どうされます? この魔方陣……」



 そうだ。

 王女殿下の床にとんでもないものを作ってしまった。

 とはいえ、一定時間経てば消えるだろうけど。



「古き都——。どこのことでしょう? これに乗ると、恐らくそこに転移されるのですよね」


「はい。たぶん」


「チコを狙って魔王がまた攻撃してくると僕は考えています。そのために、力がもっと欲しい——だったら、行くしかないかなと。マエリスとチコは——」



 とりあえず僕が様子を見てくるから、待っててと言おうとした。

 しかし……。



「「もちろん、リィトに付いていく」」


「お、おう、息ぴったりだな」



 その様子を見て、王女殿下もクスッとされた。



「恐らく、転移魔方陣の向こうには帰る魔方陣があるはずです。無理をなさらず、危険な場合はすぐに戻ってください」


「「「はい!」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る