第05話 反則呪術の一覧を見てみよう

 楽しい宴が終わった。

 夜も少し更けていたけど、僕が連れてきた少女が目を覚ましたので話をする。



「名前は? なんて呼んだらいいかな?」

「グリッチ=コード?」

「うん、それは僕のスキルの名だよね……でも、一旦コードと呼ぼうか」

「コード……はいです」



 結局彼女は何も覚えておらず、詳しいことは分からなかった。

 ただ、少女コードを探しているような両親や親族はいないようだ。

 だとすると、やはり孤児院に預かって貰うのが良いのだろうか?



「あたしは……リィトと一緒にいる。邪魔しないから、役に立つから……お願い」



 少女がこんなお願いをしてくることに強い違和感を抱く。

 僕の頭に「奴隷」のことが頭をよぎる。

 あるいは記憶を封じられていたとしたら。


 少し彼女と一緒に過ごしてみて、生活が難しそうなら改めて孤児院に相談してみよう。



「それで、スキルのことだけど?」

「はい。それなら大丈夫なのです。【反則呪術グリッチ=コード一覧インデックス】と念じてみて」



 急に饒舌になった少女コードが嬉しそうに言った。

 念じると頭の中に少女コードと同じ声が響く。



 自呪術強化:

  (火属性)【発火イグニッション】:強化レベル1

  (水属性)(ありません)


 

「あのね。リィトは今、火と水属性の魔法の強化が出来るのです」

「今日の昼間に【発火】の魔法にしたやつ?」

「はい。一度初期化されたけど、経験を積めば『他呪術無効化』など、できることが増えるのです」

「他呪術無効化……か」



 相手のスキルを、起動失敗させるものなのだろうか。



「あたしがリィトの力になるから。一緒にいさせて、ください」



 一緒にいさせて、か。

 そう言われると、断る理由なんて無いな。



「ああ。わかった。よろしくな」

「うん!」



 僕がそっと頭を撫でてあげると、少女コードは目を細めにっこりとして僕に抱きついてきたのだった。



 ——


 

 僕と少女コードで、宿屋の部屋を借りた。

 また孤児院に泊まるのは気が引けたし、お金を使うことでこの街——僕の育った街——に貢献したかった。

 孤児院には明日顔を出そう。




 ——翌朝。


 別々のベッドに寝たはずだけど、少女コードが布団に侵入していた。

 ふわっと温かいのはこの子のせいか。

 この子はどうして僕なんかに?


 いや、特に深い意味はないだろう。

 一緒だと温かいとか寂しくないとか、そんな子供らしい理由だと思う。



 僕は少女コードを起こし、二人で食事をとり孤児院に向かう。

 孤児院は、精霊教の教会跡を利用している。



「あら、いらっしゃい……ううん、おかえりリィト。昨日は宴に顔を出せると良かったんだけど。アリナを助けてくれたこと、お礼を言うわ」

「いやいや、忙しいだろうし大丈夫。お母さ——じゃなくてクリスタ」



 孤児院の代表、クリスタ。

 栗色の瞳と、長い髪が特徴の女性だ。

 とても可愛らしくて王国の貴族から求婚もあるらしい。でも、この孤児院を守りたいと断り続けているようだ。

 今でも声がかかり続けているらしい。


 神官職クレリックで、確か歳は二十五歳で僕のお母さん的存在だ。

 もっとも、いつの頃からかお母さんって呼ぶの禁止、クリスタと呼べと言われてるのだけど。

 孤児の僕を育ててくれたのはクリスタなので、やはりお母さんとしか思えない。



「大丈夫だなんて……しくしく、つれないなぁ。せっかく帰ってきたんだからもっと甘えてもいいのよ?」



 クリスタは泣きマネをしながらそう言って、僕を抱き締める。

 柔らかい感触とふわっと花のような良い香りがした。



「リィト、王都に行ってからも毎月、寄付してくれてありがとう。本当に感謝しているわ」



 集まってきた子供たちも「お兄ちゃんありがとう!」と口々に言う。

 クリスタはさらにぎゅっと背中に回した腕に力を入れてきて、頬を寄せてきた。

 彼女の髪の毛が、僕の鼻をくすぐる。

 僕は慌ててクリスタを押しのけた。



「クリスタ、ちょ、ちょっと。子供たちも見てるんだし」

「どうして? 久々の親子の再会なんだし、抱き合うくらいいいじゃない? まあまあ、赤くなって」

「もう。お母さんて呼ぶなって言ったり親子って言ったり、都合良いんだから。子供扱いしないで……くださいよ」



 この人の前だと、途端に自分が子供だと思い知らされる。

 でも、帰ってきたと言う感じがして落ち着くのは気のせいだろうか。


 興味津々に僕らのことを見る数人の子供たち。

 僕がここを離れたときと顔ぶれは変わらない。


 彼らの明るい顔を見ていると、ピンハネされながらも、報酬を送り続けて良かったと思った。



「で、その子が噂のリィトとマエリスの子供ね。可愛いし、やっぱり似てるわね?」

「だからさぁー!」



 いや、年齢を考えれば……うん、この人分かって言ってるよな。

 少女コードの周りにはいつの間にか孤児院の子たちが集まり、恐る恐る話しかけている。

 僕は彼女を紹介した。


 すると、なかなか快活そうな少年が、頬を染めて少女に話しかけようとしていた。



「あ、あの俺と友達になってくれませんか?」

「えっと……えと、リィト?」



 少女コードは許可を求めるように僕の方を見た。

 もちろん自由にすればいいと、僕は頷く。



「じゃあ、お友達!」

「いいの? やったー!」

「はい。ともだち——!」



 コードは、男の子の手を取って握手をしていて……くるくる回り出した。

 男の子が、頬を赤く染めながら振り回されている様子は微笑ましい。



「目が、目が回るよぉ! ぐるぐるぐる!」



 この光景どこかで見たような……?

 他の子も、その輪に入りたそうにしている。



「ねえ……リィト。せっかくならもっと可愛い名前がいいと思うんだけど? お父さん」

「お、お父さんはやめてください。でも、考えておきます」

「そうね。期待してるし、いつか……ここで私と一緒に……」

「えっ?」

「ふふっ、ううん、なんでもない」



 クリスタが笑うと、子供たち皆が笑う。

 心安まるってこういうことなんだな。

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