第14話 いじめ⑭

「とりあえず、北原と北原の母は沈黙、と」


 あれから数日は先日の動画の件でクラスは騒然となっていた。

 クラスメートは連日あの動画の内容や撮影者などの話題で盛り上がり、もちろんその話題はクラスメートのみならず、上級や下級クラスの生徒の保護者達にも波及し、教師陣は急遽保護者会や全校集会などを開いて火消しに走り回っていた。

 北原はSNSのアカウントを削除。

 北原は元々自己中心的で我が強く、どのクラスメートも見下していてあまり周りから好かれていなかったため、興味本位や冷やかし目的で連絡を取ろうとするクラスメートや野次馬、今までの恨みつらみなどがこもった中傷で溢れ返り、いずれもブロックなどをしても次々と湧いて出てくるせいで、とうとう一切のSNSをやめて引きこもっているそうだ。

 北原の母も、今まで散々ママ友間でボスママ気取りで傍若無人に振る舞い、ことあるごとにマウンティングもしていたらしいが、そのせいで現在はその周りからは総スカンを食らっていた。

 そして北原家では連日大声での夫婦喧嘩や親子喧嘩が絶えず、近所にもその言い合いが聞こえるほどで、警察を呼ばれたり近隣の住民からクレームが来たりということが増え、最近では人目が気になるのか引きこもっているらしい。


「えぇ、さすがにこれじゃあもう大人しくしてると思うわ。このままいけば卒業式まで大人しくしてるんじゃない?」


 現在は十月。

 この調子でいけばあとは長期休みと受験が被り、中学三年の桜にとって障害はないだろうと予想する。


「うん、それは重畳。アガツマ、魂の回収は?」

「もうちょい負の感情が育ってから回収予定〜。今いい感じに育ってきてるから、いいものが回収できそうよ」

「そうか、では引き続きよろしく頼むよ」


(これで桜の一件が片付けばいいけど)


 アズマは手元にある資料を眺める。

 そこには桜の担任である野地に関して記されていた。


(生徒から慕われ、先生からの信頼も厚く、リーダーシップのある先生、ねぇ)


 手放しの評価に、眉を顰めるアズマ。

 生徒、保護者、教師陣、どの項目も高評価ばかりで、ここまで負の面が書かれてないのは正直異様だった。


(あのとき感じた違和感は気のせいだったかな?)


 そんなことを思いながら、今回の件の事後処理のことに思考を切り替える。

 だがアズマの想定通り、この件はそれだけでは終わらなかった。



 ◇



「東雲さ〜ん、ちょっといいかな?」

「え? や、……っやだ」

「嫌がらないでよ〜」

「俺たち友達だろぉ〜?」

「そーそー、ちょぉーーーっと話があるだけだし」


 学校に来るなり、無理矢理腕を引かれて学校の裏手に連行され、ぐるりと同級生男子四人に囲まれる桜。

 自分よりも身長のある彼らからの威圧感は大きく、桜は身体を震わせた。


「東雲さん、北原達からイシャリョーもらったんでしょ? 俺らにちょうだいよ」

「そそ。金持ってるんでしょ? 友達なんだし、奢ってよ」

「そんなもの、もらってな……」

「えぇー? 嘘ついちゃいけないよー。みんなキミがもらったって知ってるんだよ?」

「そうそう。自分だけいい思いしようとしてるの?」

「あ、じゃあ友達になってあげるから友達料ちょうだい?」

「あー、いいな、それ!」


 じりじりと距離を縮め、上から見下ろすように威圧してくる男子に、桜はただおろおろとするのみ。

 腕力も逃げ足も何もかも勝てない。

 さすがにこの状況で逃げられるわけもなく、必死にどうしようかと頭の中でぐるぐると考えるが正解なんて出しようがなかった。


「へぇ? 東雲さんって意外におっぱい大きいんじゃない?」

「言われてみたら確かに」

「うわっ、柔らけぇ」

「おい、オレにも触らせろよ」

「いやっ!」


 胸を鷲掴みにされて抵抗する桜。

 無遠慮に触られた痛みで顔を歪ませると、「何逃げてんだよ」と脅すように怒声を上げ、桜はその声に萎縮して小さくなる。


「いいじゃん、減るもんじゃないし」

「そーそー。あ、友達料もらう代わりにヤらせてよ」

「いーな、それ!」

「あぁ、もちろん友達料とヤるのセットでもいいぜ?」

「だな。セットでお得!」


 ぎゃははは、と下品な笑いを浮かべる彼らにどうすることもできずに桜は涙ぐむ。


「はは、泣いてるぜ、こいつ」

「ウケるー」

「まぁ、泣いたからって容赦しないんだけど……な!」

「きゃあ!」

「スカートの中身はなんだろな〜」

「黒? あー、これ、スパッツじゃん」

「何だよ、パンツ見えねーじゃん」

「やだ、やだ……っ、やめて!!」


 男の一人が桜を足蹴にする。

 そして桜がそのまま尻餅をつくと、それに跨る男。

 桜が抵抗したところで腕力で敵うはずもなく、ジタバタと暴れることしかできない。

 その手も他の男達に押さえられ、口も塞がれ、桜はとうとう一切身動きが取れなくなった。


「んーーーー! うぅーーーー!!!」

「ジタバタしてんじゃねぇよ、殺すぞ?」


 口元を押さえられたまま首に手をかけられ、恐怖で固まる桜。

 その瞳からは涙がぼろぼろと溢れていた。


「何をやってるの?」


 男達が一斉に振り返る。

 そこにはアズマが立っていた。

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