第16話 いじめ⑯
「調べといたわよ」
「さすがアガツマ。仕事が早いね」
「ま、桜ちゃんのこととなればね」
「それで? どうだった?」
「えぇ、ビンゴ。アズマの見立て通りよ」
そこに出された資料にはいわゆる学校裏サイトと呼ばれるもののコピーだ。
あの男子生徒達から回収したスマホの履歴から確認し、彼らが共通して利用しているのがこのサイトだった。
中身は名指しで罵詈雑言や誹謗中傷など、よくこんな言葉思いつくなというもののオンパレード。
そして彼らの履歴だけでなく、SNSなどの書き込みを遡ってみるとあることが浮上してきた。
「ほら、ここ」
「つい最近の日付だね。彼らが言ってたという桜ちゃんからの証言と一致しているね」
そこには桜に関しての書き込みがズラッと並んでいた。
北原達から慰謝料をもらってる、友達いないから卒業までのお友達募集してるらしい、彼氏も募集中で未経験だから、早く卒業させてほしいみたいだよ。
などと、普通の人なら信じないような内容が好き勝手書かれていて、アズマは何かしら桜に対してよからぬ策謀を巡らせている人物がいると想定していたものの、あまりの下品な内容などに思わず眉を顰めた。
「誰がこんなことを」
「それについても調べておいた」
「アガツマ、仕事早過ぎじゃない?」
「ふふ、私を誰だと思っているの? ……それにこんな反吐が出るようなの放っておくのも嫌だしね」
そう言って出してきた別の資料は写真付きのものだった。
「
「そ、クラスメートの笹島亜香里。この子がこの桜ちゃんに関する一連の内容を連日垂れ流してるみたい」
「何で彼女がそんなことを……?」
あまりに意外な人物でアズマは困惑する。
クラスメートは大体覚えているが、この笹島は大人しくてどちらかというと優等生タイプの少女だった。
メガネをかけていて、読書好き。
成績優秀で委員会活動も積極的にしているが、いわゆる陽キャのようなあまり目立った行動を取るタイプではなかった。
しかも桜と対して接点もなく、関わりが薄いはずの彼女がなぜ桜にこのような悪意を向けるのかと疑問が湧く。
「そこで、こことここが繋がるってわけ」
「担任の野地……?」
「えぇ。野地と笹島はこの土地でいう不純異性交際? とかいう関係みたいよ。詳しいことはわからないけど、これがそのやりとり」
さらに追加で出された資料には写真がいくつかとSNSの内容らしい印刷物を出してくるアガツマ。
(さっきから、いくらなんでも用意周到すぎないか?)
そんなことを思いながらアガツマを見ると、にっこりと妖艶な笑みを浮かべて「何か?」と小首を傾げた。
「いや、別に。それにしても、随分とまぁ……芋づる式だね」
「狭い世界だからね、学校というのは。どうしても身近なところでごちゃごちゃするみたいね」
「なるほど、それは確かにそうかもね」
アガツマの出した資料を読み込むと、どうやら野地と笹島は先生と生徒という関係から外れた行為をしているらしい。
SNSでのやりとりだろうか、「先生とまた二人きりで会いたい」「先生のためならなんだってできるよ」「先生大好き」と言った言葉が並び、いかに笹島が野地に対して好意を寄せているかがわかる。
それに対し、野地は「キミのおかげで僕は仕事を続けられる」「キミに会えたことがこの仕事についてよかったと思えることだ」「卒業したら今まで我慢していて行けなかった色々なところに行こうね」と彼女の弁に乗っかり、上手く彼女をコントロールしてる印象だった。
「あれ、そういえば野地って結婚してなかったっけ?」
「えぇ、妻子持ち。奥さんも元教員で、子供は五歳だとか」
「あーなるほど、いわゆる不倫てやつ」
「そ。それに淫交罪も加わってるし、野地の蛮行はこれだけではないわ」
「どういうこと?」
アズマが尋ねると、再び資料を出してくるアガツマ。
一体どれだけ調べ尽くしたのか。
「過去の野地の評価と評判とその学校で起きたことの一覧がこれ」
そこに書いてあるのはどれもこれも以前読んだ内容と同じ高評価な野地の項目が並んでいる。
しかし、その対応するように向かいに線が引かれている項目には全く違う負の要素が書かれていた。
「不登校生一人、不登校生一人……転出二名、転出一名、保健室登校一名……これはどういうこと?」
「各学校に在学中、野地が受け持ったクラスでは必ず最低一人は何かトラブルを抱えてたということ」
「というと?」
「スケープゴートよ」
「あぁ、なるほど、そういうことか。それで桜ちゃんを使って自己評価を上げようとしたと」
「そういうこと」
アガツマの言葉に、そこで今までかけ離れていたキーワードが繋がったアズマ。
つまり、今回だけでなく過去も含めて野地は毎年受け持ったクラスの中で最低一人をスケープゴートにしてイジメを発生させ、クラスメートのストレスをスケープゴートにぶつけることで一致団結させて自己評価を上げていたのだと気づく。
まさかここまで野地が下衆なことをしてるとは思わず、アガツマが指摘するまで気づかなかったが、言われてそのような手法は昔から存在し、かつ有効だということはアズマも承知していた。
「それなら過去のデータと桜ちゃんの現状、全てと辻褄が合うね」
「えぇ。笹島はクラスを扇動する上で暗躍してもらうための駒でしょうね。過去も同じような手を使って、卒業と同時に切った子は多数いるみたい。もちろん反発した子もいたみたいだけど、写真をばらまくだとかなんとか言って黙らせてきたみたい」
「つくづくクソだね」
「同感」
アガツマがここまで徹底的に調べ上げたのは相当な怒りが籠ってることの証左だった。
アズマも大概人間に甘いが、アガツマは人間……特に若くて可愛い子が理不尽に晒されているのが最も許せないそうで、この調査結果で相当のボルテージが溜まっていることだろう。
「これは早めに手を打たないとだね」
「えぇ。もう、今すぐ潰さないと」
今すぐ、のところを強調しているアガツマをアズマはあまり刺激してこれ以上気分を損ねないように気をつけつつ、「では、早速僕は笹島に仕掛けるよ。さっさとケリをつけよう。それで、最高の魂をいただこうじゃないか」とにっこりと微笑むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます