第15話 いじめ⑮

「アズマさん、混ざりたいの?」


 一人がアズマに近寄る。

 そして手を伸ばしてアズマに触れようとした瞬間、男子生徒は文字通り身体が吹っ飛んだ。

 そのまま叩きつけられるように壁にぶつかると、気絶したのかぴくりとも動かなくなった。

 まるで時が止まったかのようにあまりの衝撃で呆然とする男子達だが、ハッと我にかえると途端に騒ぎ出す。


「なっ! 何が起きた!?」

「どうなってんだよ、おい!!」

「てめぇ、何しやがった!」


 動揺しているせいか、急に威勢がよくなる彼ら。

 そして、彼らが桜から離れたことを確認すると、アズマはゆっくりと後ろ手で印を結んだ。


「口の聞き方には注意したほうがいいよ? は今、とても怒っているからね」


 アズマがにっこりと微笑むと、一瞬でぶわっと辺り一面が暗闇に飲み込まれる。

 男子生徒達は突然の暗闇に右往左往した。


「な、なんだよこれ!」

「おい! みんなどこだ!」

「オレはここだ!」

「……さぁ、ショータイムと行こうか」


 パチン、とアズマが指を鳴らすと、パッと月明かりのような光が頭上に一点灯る。

 すると、男子生徒の周りには自分の身の上以上の影の群れが、ズズズズ……っと足下から湧き出てきた。

 その姿は誰もが恐怖するほどの異形で、影から赤黒い目玉だけがギョロリと現れ彼らを見ると、蛇に睨まれた蛙のように身体を硬直させる彼ら。

 影は彼らの姿を確認すると、何やらモゾモゾと形を変える。

 そして、先程までなかったはずの口がモゴモゴと動いたかと思えば、ガパリと人一人飲み込めるほど大きく開いた。


「ぎゃああああ!!」

「っひぃいいい!!」

「く、来るな! 来るなぁああああ!! やめろやめろやめろぉおおお! うごぉむぇあああぅ」


 一際大きく叫んでいた男子が一人、頭から飲み込まれる。

 飲み込まれたことで叫び声がくぐもって聞こえ、それに怖気づく二人は慌てて逃げ出した。


「やべぇやべぇやべぇやべぇ!!!!」

「どうしよ、飲み込まれちまったぞ……っ」

「知らねーよ! てか、ここどこなんだよ!?」

「わかるわけねぇだろ!! っうわ!」


 足下に何かが引っかかり一人が転ぶ。

 するとそこには足下にわらわらと群がる影達の姿。


「うわああああああ! は、離せ! 離せよ!!」


 次々と押し寄せてくる影達を振り払おうとするも離れず。

 必死に蹴って落とそうとするもどんどんと引っ張られて、闇の沼から次から次へと伸びてくる手に引き摺り込まれていく。


「やめっ、やめろぼぼぼぼ……!」


 とうとう沼に飲み込まれてまた一人消えていき、残ったのはたった一人。

 そいつは先程桜に無体を働いたやつだった。


「嘘、だろ……? なぁ、なんかのドッキリとかだよなぁ!?」


 自分以外誰もいなくなってしまった恐怖で足が震えている男子。

 先程までの威勢はとうに消え去り、下半身はじわっと湿り始めている。


「わ、悪かった。俺が悪かった……! だから許してくれ!!」

「許す……? ははは、……冗談キツいなぁ。僕が来なかったら抵抗して嫌がってた桜ちゃんを犯そうとしてたくせに? 笑わせないでくれる?」

「ひぃっ!!」


 アズマが黒い影を帯びながらそいつの首を掴む。

 そしてゆっくりと持ち上げながら耳まで裂けた口でにんまりと笑うと、「そんなに許してほしいなら、桜ちゃんの絶望くらい簡単に飲み込めるよね?」とアズマは言うと男子の口を無理矢理ガパリと開けさせた。


「は? な、何だ……あ、あぇ……がはっ……は、あ……ぁあ」


 必死に抵抗するも、アズマの力に勝てるはずもなく、口を閉じることすらできずに目を白黒とさせる男子。

 そしてアズマが「さぁ、おいで。好きなだけ遊んでおいで」と言えば、影達が一斉にその開けられた口の中に入っていった。


「あがががががぁああああばぁああばぁあが」

「ははは、どう? 美味しいかい? ……絶望の味は」


 無理矢理口を開けられ、白目を剥きながら立ち尽くす彼をアズマはニコニコと見守る。

 そして影達が全て男子の身体に入り込むのを確認すると、気絶して脱力した彼をそのまま地面に落とした。


「これくらいで音を上げるなんて、威勢の割には大したことなかったなぁ。もっと楽しめると思ったのに、残念」


 アズマは彼らの荷物からスマホを抜き取ると、パンパンと手を叩く。

 すると先程まであったはずの暗闇が消え、そこには意識を失った男子生徒が四人とも倒れていた。


「あ、アズマさん、一体何がどうなって……」


 桜が動揺してるのかおろおろとしている。

 それもそのはず、桜には先程の影の一件は見えてなく、彼らが突然気が狂ったかのように昏倒したり気絶したりしたようにしか見えていない。

 そのため、何がなんだか状況が全くわかっておらずに混乱した様子だった。


「本当急にどうしたんだろうね。あぁ、何か薬でもやってたのかな? それよりも、桜ちゃんは怪我はない?」

「え? あ、はい。怪我は、大丈夫です」

「そう、それはよかった。……念のために式神をくっつけておいてよかった」

「え?」

「いや、何でもないよ。……怖かったでしょう? もう安心していいよ。あぁ、この見た目ならいいわよ、って言ったほうがいいかな?」


 震える桜の身体を抱きしめると、時間が経ってからぼろぼろと涙が溢れ出す桜。

 やはり怖かっただろう、アズマにしがみついて泣き始める。


「アズマさん、ありがとう、ございます……っ! 私、わた……し……っ」

「よしよし。もう大丈夫だから。僕がもうこれ以上キミに恐い思いをさせないと誓うよ」


 慰めるように桜の頭を撫でる。

 アズマは彼女の背を撫でながら、彼らから奪ったスマホを眺めるのであった。

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