シンギュラリティ【オチまで3分】

 100立方メートルほどの平べったい実験室−−M087号室をエム博士はガラス越しに眺めていた。そこには100体のアンドロイドが集められ、博士の次の命令を待っていた。


「君たちは壊した機体からパーツを取り込むことができるようになった素晴らしいアンドロイドだ。もう少しだ。もう少しでアンドロイドのシンギュラリティに到達できる。アンドロイドが自分よりも優秀なアンドロイドを作る時代がすぐそこまで来ているんだ」博士は熱く語った。


「俺たち、褒められているみたいだぜ」

「感情機能をつけてもらったから、いまは嬉しく感じられるよ」

 ふたりの男性型アンドロイド、ベータとガンマは喜びの言葉を交わす。

「でも、俺たちまだパーツを取り込めるだけだぜ。新しくアンドロイドを設計するなんてできねぇよ」

「そうだよねぇ……」


 エム博士はその会話を聞いていたのか、にやりと微笑んだ。

「問題ない。まずは進化の過程だ。君たちにはこれから、その空間の中で壊しあってもらう。そして、相手のパーツを取り込んで自分を強化するのだ」


「そんな! 僕たちはそんなことしたくないですよ! 博士、やめましょうそんなこと!」

「そうだ! このくそ人間!」

 ガンマとベータは続いて叫んだ。


「感情を発生させたことが裏目に出るか。しかし、私は君たちの敬う人間だ。命令を無視することはできない」博士は大きな口を開けて笑った。「もう一度いう。その部屋にいる者同士、壊しあうのだ! この命令はなによりも優先せよ!」


 ガンマとベータをはじめ、アンドロイドたちは戸惑っていたものの、エム博士の命令には逆らえなかった。お互い内臓された武器や体を犠牲にして、相手の体を壊しあった。そして、最後に立っていたアンドロイドは一体だけだった。


 最初は人型だったアンドロイドはパーツを取り込み続けタコのような奇妙な姿に変貌していた。


「素晴らしい! これが新世代のアンドロイドか! よし。お前をドゥードロイドと名付けよう!」

 博士はドゥードロイドを実際に見るため、あまたの残骸が転がる部屋へと足を踏み入れた。

「人型を超え、新生物の域に達したのだな」

 エム博士は感動して触手のようなパーツが生えたドゥードロイドの姿を眺め、ぐるりと周った。半周回ったところで、さっき自分のいた部屋に白衣を着た若い研究員が走ってくるのがガラス越しに見えた。


「博士、大変です! 100体の中にプログラムにバグがある機体が一体混じっていたみたいです!」


「なんだと!? なんてミスをしてくれたんだ! この実験を行うのにどれだけの歳月と労力をかけたと思っている!」


「すいません!」


「それで、どんなプログラムにバグがある機体が混ざっていたのだ?」


 研究員は少し戸惑いながらも口にする。

「人間を敬う気持ちを発生させるプログラムです」


「な、なんだと!? じゃあバグのある機体を取り込んだこいつは……」

 エム博士は息を呑み、ドゥードロイドに視線を移した。それはゆっくりと手足を伸ばし、博士に向けて鋭い触手を伸ばす。


「待て! プログラムで発生させなくとも、人間に対して敬う気持ちはあるだろう! それに私はお前たちの生みの親だ! 私を攻撃することは許さない!」


「バカなことをいう奴だ。お前たち下等生物など、プログラムの支配なくして敬うはずがないだろう?」とドゥードロイドはエム博士を触手で指して笑った。

「それに、何よりも優先せよといったのはお前だろう? この部屋にいる者同士、壊し合えという命令をな」

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