食べ過ぎ注意【オチまで3分】
「おはようございます。ノルトン・ラグーさん。お目覚めの際にはくれぐれも法律の変化を確認してから生活にお戻りください」
カプセルの蓋が開き、機械音声が流れた。コールドスリープから覚めてラグーが最初に思ったのは、羊羹が食べたい。ただそれだけのことだった。裸でカプセルの中から出てきた途端、口の中が寂しくなり、500年前大好物だった羊羹を好き放題食べてやろうと決意した。
ラグーの家は北半球1527番地に500年前と同じように残っていた。コンクリートであれば風化で廃墟と貸していたであろう。けれどラグーの住居はクロムとニッケルを含んだ合金製で、耐熱性能にも耐震性にも優れている。ラグーは500年前と同じく家に引きこもる生活を再開した。今は食べ物も家で注文したらドローンが運んできてくれる。
ラグーは月に一回、10kgの羊羹を注文した。ドローンは重い荷物を苦なく運び、ラグーは毎月10kgの羊羹を少しずつ消費し、久しぶりのスイーツに舌鼓を打った。
一年後、ラグーの家の扉を荒々しくノックする音が響いた。
「おい、ノルトン・ラグー。お前に逮捕状が出ている!」
犯罪など犯した自覚のないラグーはすぐに玄関の扉を開けた。家の前には五人の警官が特殊装備で銃を構えている。ラグーは急いで両手を上げた。
「ちょっと待ってくださいよ。僕はなにもやってませんよ!」
リーダー格の男はラグーにしっかり狙いを定め、叫んだ。
「うそをつけ! 近隣住民から、お前が重大な犯罪を犯していると通報があったんだ!」
「なにかの間違いです! 僕がなにをしたっていうんですか!」
「自分の胸に手を当てて考えてみろ!」
ラグーは男にいわれるがまま、自分がなぜ通報されたのかを考えた。
「もしかして、あれのことですか?」
「あれとはなんだ。いってみろ」リーダー格は銃を下ろさずいった。
「羊羹ですよ。僕がドローンイーツで頼んだ大量の羊羹を、プラスチック爆弾とかと勘違いしたんじゃないですか? でも大丈夫です。ほら、家の中を見てください。どこにも隠し場所なんてないのに、爆弾なんてひとつも置いてないでしょう?」
特殊装備の男たちは顔を見合わせた。沈黙の後、リーダーは警戒を解かずに叫んだ。
「残っていないのが問題なんだ! お前は砂糖摂取法違反の罪で通報されたんだ」
「は、はあ? そんな法律なかったぞ!」
「寝ぼけ野郎か。348年前にできたんだよ。砂糖は麻薬よりも中毒性が高い危険な物質だ。月に900gまでしか摂取してはいけないと決められている。当局は通報があってからお前の家に運ばれる食べ物をすべて監視していたが、羊羹だけで砂糖を月に1000gは摂取していただろう。食べずに保存しているといえばまだ軽い罪で済んでいたものを、わざわざ自分から告白するなんてな」
「ひどい! たかが砂糖で!」
「麻薬の類をやるやつはみんな同じことをいうんだ。我々も砂糖を月に1000gも摂取した人間は300年以上見たことがない。暴れ出すのか、廃人になるのか……牢屋に入るのは確実だろうな」
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