運命の人【オチまで2分】

 超高層ビルの隙間で黒いローブを被り、水晶玉をテーブルの上に乗せている女がいた。街を歩く男は妙に老婆の奇妙な佇まいに惹かれ、占ってもらうことにした。男はテーブルの前に置かれた丸椅子に腰掛け、老婆に五千円を払った。


 老婆は薄いテーブルの上に乗せた水晶玉を睨み、しわがれた声でいう。

「あなたは十年後、運命の出会いをするでしょう」


「本当ですか?」


「ええ。似たもの同士、相性は最高ですじゃ。これまで悩んできたのが嘘のように、会った瞬間、運命の人だとわかるはずじゃ」


 断言する老婆の笑顔は奇妙で、妙に男の記憶に残った。それからその占い師は姿を表さなくなったが、それゆえに男はその老婆の予言が脳裏に焼き付いて離れなかった。時が経てば経つほど予言が気にかかり、十年後の運命の出会いを早く体験したい気持ちが強くなっていく。


 どうしても気にかかった男は、独身でロボット技師の腕も確かだったこともあり、十年間のコールドスリープを受けることにした。男はコールドスリープを国家事業として請け負っている会社に出向き、料金を支払ってスタッフにD500番のコールドルームに連れられていった。


 カプセル型の機械を前にして、男はつぶやく。

「これで一度眠れば、すぐに運命の出会いができるはずだ」


「それでは、スイッチを入れますので、そこに横たわってください」

 スタッフがいうと男はカプセルに入り、眠りについた。


 十年後、男は清々しい気持ちで目を覚ました。伸びをして、本来の目的を思い出す。

「そうだ! 早く運命の人を探さないと」


 男が急いでカプセルから出ると、隣にある同じ形のカプセルが開いた。中にいた女性は背伸びをして、何かに気づいて声をあげた。


「そうだ! 早く運命の人を探さないと」

 男はすぐに彼女が運命の人だと理解した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る