砂漠の星【オチまで5分以上】
その惑星はラクダ色をしていた。
ただ一色。
グラデーションさえもほとんどない球体。
無数に棘が突き出たような形をした宇宙船は、ふらふらとした動きでその惑星に着陸した。中から出てきたのは、完全に外気と遮断された宇宙服を着たアルファ・ガンマ・シータの三人だった。三人の宇宙服の右肩にはそれぞれα・γ・θと自分のコードネームと一致したギリシャ文字が刻まれている。
「はるか彼方あの青い星を出てから、とうとう生き残ったのはこの私たちだけになってしまったな」宇宙服頭部の強化プラスチックにアルファの声が反響する。
「一年前は十五人残っていた。それが一ヶ月前には四人。昨日ベータが死んで三人だ。俺たちはもうおしまいだぜ」シータは吐き捨てた。
「そんなこというな。まだ希望は残ってるかもしれないだろ!」ガンマは力強く励ます。「燃料はなくなってしまったが、この惑星に代わりがあるかもしれない」
棘だらけのハッチから三人は地表にジャンプした。ゆっくりと着地すると、彼らは地面がすごく柔らかいことに気がついた。
ガンマは急いで手で地表の物質をすくった。「おい! この色、全部砂だ!」
「なんだって!?」アルファとシータも続いて確かめる。
シータは力なく、終わった、と呟いた。「人生の最後をこんな干からびた星で過ごすなんて、なんて俺は運のないやつなんだ」
「まだ諦めるのは早いぞ。シータ。地表全てが砂に覆われているとは限らないし、もしかしたら地下資源があるかもしれない」ガンマは励ました。
「宇宙から見ただろ? あのベージュ一色の惑星を。この星は地表がすべて砂で覆われてるんだ。もう終わりだよ」
「シータの気持ちもわからないではないが、なにも探索する前に希望を捨てることもあるまい。一応食材や燃料の代わりになるものがないか探してみよう」
アルファの提案で、三人は砂の惑星を探索することになった。砂に足を取られ、体力は着々と削られていくにもかかわらず、目に入るのはすべてが砂。シータがもう終わりだとつぶやくたびに、ガンマは励ました。
三人の目の前に、円錐状の地形が現れた。もちろん砂で覆われている。
「おい! あれを見ろ!」アルファが地形の底を指して叫んだ。「なにかあるぞ!」
「どうせ墜落した宇宙ゴミかなんかだろ。こりゃクレーターだよ」シータは項垂れたまま、斜面に座り込んだ。
アルファはそんなシータを見かねて、見つけた物体に向けて走っていった。シータを残すわけにもいかず、ガンマはその場でアルファを見守る。
アルファの見つけたそれは、巨大なトゲのような物体だった。
「なんだ? これ」アルファがそれに触ろうとした瞬間、トゲは大きく動き出し、アルファの宇宙服はトゲの先端に捕らえられ宙に浮いた。「た、助けてくれ!!」
アルファが囚われているのは巨大な甲殻類の化け物だった。硬い殻に覆われた体。無数に生えた足。口のハサミにアルファの服は引っかかっている。
「アルファ!!」
ガンマはアルファに向かって手を伸ばす。が、届くはずもない。
「燃料がないだけじゃねぇ! 俺たちは恐ろしいモンスターの住処に迷い込んでしまっていたんだ!」シータは叫びながら斜面をもがいて登りはじめた。
「おい! シータ!」とアルファは呼び止める。「なにをやってる! 早くアルファを助けないと! 光線銃のエネルギーが残っているのはお前だけだ!」
「バカいうな! あんなのに小銃で勝てるはずないだろ!」
「嫌だ! それよりあの化け物の行動を分析して倒すんだ!」
「だから無理だっていってんだろ!」シータは宇宙服をもぞもぞと動かし徐々に上っていく。
「なぜこの砂漠の星で、あんなに巨大な化け物が育つんだ……?」
「知るか、アルファはもうダメだ。早くここから逃げるんだよ」
「俺は逃げない。アルファを助ける!」
「なら勝手にしろ! ただし俺の銃は渡さねぇぞ。最後に自殺するときにでも使ってやるさ!」シータは引き止めるガンマに構わず、あがいて砂の坂を登っていった。
叫び続けるアルファを見て、ガンマは尻込みした。誰だって死ぬのは怖い。躊躇している間に、アルファと怪物に引き込まれて砂の中へと引き込まれていった。
このままではまずい。ガンマのアドレナリンは最高潮に達した。
「アルファ! 今助ける!」ガンマはアルファを追い、砂の中へと飛び込んでいく。それが無謀な挑戦だと知っていながら。
一方シータは、無事化け物の巣を離れることに成功していた。息を切らし、照りつける太陽に汗が宇宙服の内部に流れ出ていく。歩き続けても、景色は変わらなかった。とうとう歩けなくなったシータは、宇宙服のポケットから光線銃を取り出した。
「もうだめだ、こうなりゃ自分で自分の命を……」
よく見ると、エネルギーは一発分には少し足りなかった。これでは自殺することすらできない。
「なんて、運の悪い……」
そのままシータは干からびて死んだ。
気がつくと、ガンマは緑の光に包まれた洞窟のような場所にいた。上を見ると、砂が落ちてきている。ガンマは砂の丘の上に着地していた。周りを見ると、信じられないことに、周りには街が広がっていた。多くの人間が宇宙服もなしに地下で暮らしている。
円錐状の地形から下に流れているように見えた砂の先には、楽園があったのだ。
「おい! ガンマ!」アルファが駆け寄ってきた。
「おお、アルファ! 生きてたのか! いったいこれはどういうことなんだ?」
「俺たちは助かったんだよ!」
「助かったって……。それじゃ、あの化け物はいったい?」ガンマは元いたはずの天井を見上げる。
アルファは宇宙服の頭部を外した。凛々しい彫りの深い顔が露わになる。「さっき村長に話を聞いた。ここは地下資源にあふれているが故に、侵略者がやってくるらしい。それを追い返すために村長はあの機械を作ったんだ。多くの侵略者がこの星を訪れ、砂漠の星とあのハリボテを見て去っていったらしいんだよ」
「そうなのか、じゃあいますぐシータをここに呼ぼう。ここでなら私たちも生きていける。幸せを掴めるんだ」
アルファは目を閉じ、小さくかぶりをふった。「だめなんだ。ここの掟で、地下から外の仲間に連絡することは禁じられている。それを破れば俺たちはここで生きることを許されない」
ガンマは悔しそうに呟く。
「そうか。でもまだ望みはある。シータが最後に私たちを助けようと思い立ってくれさえすれば、あいつも救われるんだ」
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