リモコン専門店【オチまで2分】

 アンドロイドの少女ララはレイ博士と買い物に出ていた。すべての物資は家に配達される時代になったが、レイ博士は物事を教えるために度々ララを街に連れ出している。


「博士、あれはなんですか?」

 ララは大昔に使われていた物理ボタン式のリモコンが大量に並んでいる店を指した。テレビの細長いリモコンから、電灯用の小さなリモコン、クーラー用のリモコンまで、古今東西あらゆる電化製品のリモコンが陳列されている。


「あれはリモコン専門店じゃよ」


「リモコン専門店? でも博士。どこの家もすべての機械が音声で操作できます。リモコンなんてまったく必要ありませんよね」

 ララは不思議そうに博士の顔を見上げた。


「そんなことはない。コアな需要があるんじゃ」と博士は笑った。「一個買っていくとするかの」


 ララは博士に付いていき、博士が真新しいテレビのリモコンだけを買う光景を眺めた。家に帰ると、レイ博士は椅子に座ってリモコンを取り出し、ボタンを何度も押し始めた。


「博士、テレビを点けるなら、テレビオンとおっしゃってください」

 ララは相変わらず不思議そうな目で博士を眺める。


「違うんじゃ。これはな。テレビを点けるためではなく、ボタンを押すために買ったんじゃ」レイ博士は満足げに机に乗せたリモコンのボタンを押す。「この押し心地、とても懐かしいわい。やっぱりたまにはボタンを押すのも悪くないのう」

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