マイクとジャック【オチまで4分】

 宙に浮く球体のミュージックポッドは、マイクとジャックの耳元に快適な音楽を運ぶ。全身タイツのような見た目の高機能スーツは双子のマイクとジャックの座る位置座標を正確にミュージックポッドに伝え、指向性のあるスピーカーはそれぞれにだけ聞こえるように音楽を流すのである。


 部屋にはスマートでボタンの一つすらない機械がいくつも並ぶ。もちろん、ケーブルの類などは一切存在しない。


「ねぇ、そういえばさ」

 マイクは全身を黄色いスーツに包んだジャックに問いかけた。


「なんだ?」

 ジャックは右耳をタッチして音楽の再生を止めた。


「この前、アメリカって国があった時代の古代遺跡の探検ツアーに行ってきたんだ」


「俺のいない間に楽しそうなことと思ってたけど、なんでいまさらそんな話を?」


「いやさ」とマイクは緑色のスーツのお腹の部分にある切れ目に腕を突っ込んだ。取り出したのは、『イヤホン』と古代文字で書かれたプラスチックのパッケージだった。「これ、探検ツアーで僕が見つけたからもらえたんだ。すごくないかい?」


「なんだそれ」


「イヤホンっていうんだって。音楽を聴くためのものなんだよ」


「いやいや、音楽を聴くのになんでそんな道具が必要なんだよ」


「昔は耳に直接道具を入れて音楽を聞いていたらしいんだって」


 ジャックは馬鹿にするなとばかりに笑った。「そんな非衛生的な道具があるかよ。嘘をつくならもう少しましな嘘をつけ」


「本当なんだって。見てみなよ」マイクは風化したプラスチックパッケージを開いて、二股に別れた黄色いケーブルを取り出す。しかし使い方がわからず、手で弄んだ。


「ほら見ろ。使えないじゃないか」


「違うって。これは本当に音楽を聴く道具で」


「じゃあどういう風に使ったか説明してみろよ」ジャックは挑戦的にいった。


「えっとね。多分、このふたつに別れている先のシリコンを耳に入れたんだよ」マイクは自分の耳にカナルを挿そうとする。


「やめとけマイク! ばっちいだろ!」


「でも使ってみないとさ」


「そうだけど……」マイクは強引に自分の耳にカナルを挿した。「あ、ぴったりハマるよ。確かにこれは音楽を聴く道具だ」


「でも、一本線が残ってるだろ?」


「ああ、そうだね」マイクは黄色いスーツを被った頭を傾げた。「一体どこに挿すものなんだろ」


「鼻とか?」


「ああ、そうかも」マイクは片方の鼻の穴にプラグを挿した。「だめだ。ぴったりハマらないよ」


「他の穴か……ならケツの穴とかか?」


「えー、でも届かないよ。ジャックの穴を貸してよ」


「馬鹿! 届かないなら使い方違うに決まってんだろ!」ジャックは唾を飛ばした。


「ああ、確かに!」


「でもそうなるとどこに挿すものなのかわかんねぇな」ジャックは頭を抱えて悩み始めた。「そうだ! 近くの裏山の洞窟に古代遺跡が残ってたって話あったよな。あそこに行って確かめてみればいいんじゃないか?」


「名案だよ!」


 二人は古代アメリカ合衆国の遺跡の残る洞窟へと足を運んだ。遺跡は住居がほぼほぼ残っており、洞窟の中は合成プラスチックで加工されていた。中に入ると、マイクとジャックはまず電気が自動で点かないことに驚いた。


 マイクは物理ボタンで電気を点けた。


 二人は室内に残る機械にプラグを挿そうと色々試みてみたが、残る機械はどれも風化していて、ぴったりハマるものはなかった。


 マイクは迷って、壁に穴が空いているのを見つけた。


「ねぇ、ジャック。もしかして、この穴に挿すんじゃない?」


「でもよ、マイク。穴はふたつあるぜ」


「僕たちみたいな双子が使うためのものじゃないの?」


「それもそうだな」ジャックは笑った。


「実は、これ、もう一つ遺跡で見つけてたんだ。僕ら双子だし、ジャックにもあったほうがいいと思って。はい、プレゼント!」


「サンキュー、マイク」

 ジャックは緑色の有線イヤホンを受け取ると、嬉しそうにそれを見つめた。


「ねぇ、ジャック。せっかくだから、昔の人みたいに有線のイヤホンを使ってみようよ」マイクは黄色いイヤホンの先端を持ってうずうずしていた。


「よし、やるか!」ジャックもマイクと同じようにスーツと同じ緑色のイヤホンのプラグを右手に持った。


「それじゃ、試してみよう」マイクの声が響き、二人は声を合わせて、プラグを壁にあるふたつの穴に向けた。


「せーの!」

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