言語の統一【オチまで3分】

 西暦2235年に起こった第六次世界大戦の結果、アメラト共和国が地球を統一することになった。最後まで抵抗を続けていたイギルカ公国の少年兵コンタは、南アメラトの荒野の上でアメラト共和国の屈強な兵士ラガンに捕らえられ、両手を縛られた。


「同盟国を増やすだけで満足すればよかっただろ! なんで俺たちの言葉を奪うんだ!」


「イギルカ語か。わずか一万人しか使っていない言葉になんの意味がある。もう他の全ての国はアメラト共和国の一員になることを決め、言語もアメラト語だけを使うことになった」


「言葉は文化だ。言葉を奪うということは、文化を殺すということだ! 人道に反すると思わないのか!」


「笑わせてくれるな。これこそが地球の効率的なあり方なのだ」

 ラガンは少年を踏みつけた。


 コンタは憎らしげにラガンを見上げたが、もはやどうしようもなかった。彼は諦めて、赤い土に頬を擦り付けながら、これから奪われる自分の国の文化に思いを馳せた。


 あれから二十年。コンタは立派な青年となりアメラト共和国の端で静かに暮らしていた。一方、ラガンはアメラト共和国の軍のトップとなり、国、もっては統一した地球全体を導く立場となった。アメラト共和国の首都、アメラルトでは軍隊が民衆を監視し、アメラト語以外を使っていないか監視している。隠れて使っているのを見つかれば、ひどい罰を受けることは皆わかっていた。コンタももはや争う気力を亡くし、すっかり使い慣れたアメラト語を話していた。


「なんだ? あれ」

 コンタは空を見上げた。天から飛来したのは無数の円盤体だった。


 アメラト共和国の軍部の中枢は円盤から登場した緑色の生物に包囲された。人と同じ形をしているが、肌は緑で気味が悪い。ラガンは軍のトップとして凛として対応したが、彼らは人間の言葉を使ってこう問いかけてきた。


「我々は地球よりも二千年は文明が進んでいる。すぐに投降せよ」


「バカをいうな。我々もやっとのことで地球を統一したんだ。お前らなんか力づくで追い返してやる」

 ラガンは周りを取り囲む十人の部下に生物を撃ち殺すよう命じた。次々と発射たれる弾丸たち。しかし、緑の生物は穴が空いては再生していく。


「無駄だ。二千年の差は覆せない」

 宇宙生物はすぐにアメラト共和国の軍を制圧し、ラガンは全国民に放送される会議室で宇宙生物の代表と今後について話し合った。


「アメラト共和国の言語はタクト語とする。教育に関しては心配する必要はない。なんせ二千年も文明が進んでいるのだ」

 緑の男は響くような声で語った。


「待て。地球から言語を奪うなんて、人道に反する行為だ!」

 お前がいうか、と思いながらコンタはアメラルトのビルの液晶に映る会議の様子を眺めた。緑の生物は、口角を上げていう。


「笑わせてくれるな。これこそが宇宙の効率的なあり方なのだ」

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