告白


「あ、あの、洛陽さん。一つだけ質問してもいいですか?」

 ずっと黙っていた大和がおもむろに口を開いたので、洛陽は少し瞬きをする。おどおどとした大和の様子は見た目相応の子供のようで微笑ましい。洛陽は大和に笑みを向けると、「ん? なぁに?」と首を傾げた。

「俺、自分が何者なのかよく分からないんです」

 大和はぽつりと言った。

「自分がヤマトという土地だってことは知っています。人間とはどこか違うことも分かっています。ただ、それ以外何も分かりません。気づいたら生まれていて、いつの間にか人間に世話をしてもらっていて、ただ何となく生きてきました。別に不自由がある訳では無いし、それなりに毎日楽しいんです。でも、いざ自分が何者なのかと問われると上手く答えることが出来なくて、それがもどかしい」

 大和が拳を握った。柔らかな布が彼の指に絡まりシワをつくる。それは複雑な大和の心にそっくりだった。洛陽はそんな大和を見つめると、「ふふ、大和くんは偉いね」と微笑んだ。大和が顔を上げるのも束の間、彼は椅子から立ち上がって大和の方へと歩いてくる。

「そこで迷うのはいい経験だよ。きっと心がモヤモヤして大変だろうけど、その迷いは僕らにとって大切なんだ。何故僕たちは生まれたのか、何故僕たちは人間に寄り添って生きているのか。僕らが生きる意味はきっとその迷いの中にある」

 そこで洛陽は大和の頭に手を置いた。幼い弟を可愛がるかのように、優しい手つきで彼の髪を撫でる。その手は春の日差しのように、柔くおおらかで温かかった。

「せっかくだし、お散歩に行かない? 僕がこの街を案内するよ」

 大和は目をぱちぱちと瞬かせる。洛陽は何も言わずににこりと笑った。その朗らかな笑顔につられたように、大和はこくりと頷くと椅子を下りる。そして、二人は手を繋ぐと屋敷の外へと足を踏み出した。










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