四、飛鳥
都
当時の飛鳥の中枢は
その額田部を目の前にして、帰還した大和は深く礼をする。彼女はくすくすと笑うと、「良い良い、もっと近くにおいで」と手招きをした。額田部には
彼女は我が子竹田を想うがゆえに、身体が丈夫で皆の信任も厚い厩戸や、後見になっている馬子を恨んだこともあった。しかし本心ではない怒りに虚しくなったのだろう。幾つかの月日が流れてからは、また厩戸と馬子へ心を寄せてこうして国の頂点に立っている。
大和にとっては優しい母のような人だった。それゆえに、彼女と二人きりで向き合う時はいつも傍で頭を撫でられた。ちょうど竹田のように見えるのだろう。彼もまた、大和に似たまろやかな髪の持ち主だった。
「どうであった? 隋は」
額田部が髪を梳きながら問う。大和は「面白い国でした」と答えてやった。海の広さ、恐ろしさ。華やかな市の香りや異国の喧騒。そして同じ存在である洛陽のこと······。額田部は楽しそうに頷くと、「それは良かった」とまた大和の髪を弄ぶ。少々耳に擦れてこそばゆいが、嫌なものではなかった。
「上手くいくかのう」
ふと柔い彼女の指が止まる。厩戸らが隋との交流をすると言い出した時は「そうか」と答えて了承した。しかし不安だったのだ。女の大王が隋を怒らせて
以前妹子が言っていた。隋という国は、どうも男が尊ばれていると。もしも倭の王が女だと知ったら皇帝・
額田部が再び大和の髪を撫でる。
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