福利
「大陸が見えましたぞ!」
誰かが発した歓声に、ぼんやりと昔のことを思い出していた大和は顔を上げた。横にいた妹子も含め、全員が一斉に船の前方へと顔を向ける。
なだらかな水平線の奥。淡い空と対峙するかのように、堂々とした黒影が見え始めていた。朝鮮半島である。ゴールが見え始めれば自然と力が湧いてくるもの。
白波とともに上陸すると、多くの人が駆け寄ってくる。数名は遣隋使を待っていた港町の重鎮たちで、その他大勢は野次馬らしい。倭国の使節を一目見ようと各々首を伸ばしている。その視線に気圧されながらも、大和は初めての異国に心を躍らせた。
ここは朝鮮半島の南西に位置する
残りは南東の
見える景色はあまり倭国と変わらないようだが、人々の言葉は全く理解ができなかった。そこで初めて、異国の風がひしひしと身に染みてくる。
「大和さん。私は族長の方にご挨拶に行ってきますね。今日はここに停泊する予定ですので」
妹子がそんなことを言いながら船を降りていく。初めて異国に来たにしては落ち着いているように見えた。彼の後ろには数人の護衛と一人の小柄な青年が従っている。妹子も背が高い方ではないが、その青年はさらに小さな背丈をしていた。確か、
その日は港町の人々にもてなされて眠りについた。水夫や下働きの者たちは停泊している船の中で眠っているが、大和は大使の妹子と共に港町の屋敷に案内された。久しぶりの陸地は心地よく、布団の香りが懐かしい安心感を運ぶ。大和は数週間ぶりに深い眠りに落ちていった。
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