宴
「あ、大和殿! 無事に戻られて良かった」
突然声をかけられた大和はビクリと肩を震わせて振り返った。すると、数人の付き人を従えた男が嬉しそうにこちらへ駆け寄ってくる。
「わっ、
それは現在
この男は他人と深く関わるのが苦手なのだが大和には昔から懐いていた。というのも、大和は普段蘇我氏のもとで暮らしていたのだ。未だ得体が知れぬこともあり、
その影響で、馬子の代へ移ったあとも蘇我に面倒を見られている。同じ屋敷で暮らしているゆえに、蝦夷たちとは兄弟のような仲であり、彼が大和に親しみを持つのも自然な話であった。
「大臣も忙しいやろな。飛鳥は飛鳥でもてなしの準備してるんやろ?」
「ええ、父と
皇子とは
「そういえば何やら不思議なもてなしをするとか。何と言いましたっけ? あの食事をする時に使うという二本の棒のような······」
「ああ、箸やで。隋で使ってる食事道具やねん」
実は今回、せっかく教えてもらったのだからと言う理由で宴の際に箸を使うことにしたのだ。もちろん倭国の群臣たちが使い方を知っているわけないのだが、そこは事前に連絡して少し触ってもらっている。
「大和殿はもう扱えるのですか?」
「うん、あっちで教えてもらった」
「凄いですね。私は全く······。あの箸というものは神事にしか使わないのだと思っておりました。祭祀をする
そう言って顔を顰める蝦夷に、大和はくすくすと笑いを漏らす。久しぶりに交わした倭の話題に、どこか懐かしくあたたかい心地がした。和やかで賑やかな宴の灯火が、難波の夜にぽつりと浮かんでいた。
初めて隋の使者を迎えたにしては、中々良い雰囲気だ。裴世清自身が穏やかなことも理由の一つだろうが、それ以上にどこかまとまりがある。
大和はやっと帰ってきた幸せを実感して、飛び交う大和言葉に眉をやわらげた。
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