陸の果て
しばらくして百済に入ると、山を越えた先に小さな港町が現れる。船に残していた水夫たちとはここで合流することになっていた。約束の場所へ向かえば、あちらはもう到着していた。
「あと停泊所ひとつ分歩きゃあ船は持つでしょうな」
新羅の商人たちはそうとだけ言うと荷車を下ろす。どうやら次の停泊所までは付き添ってくれるらしい。結局、そこまでは陸路で進み、その後は本来のように船で移動することとなった。それを水夫たちへ伝えに行った妹子を横目に、大和は福利に話しかける。
「なぁ、なんか······」
話しかけたはいいものの、言いたいことは上手く言葉にならなかった。しかしそれだけでも理解したのか、福利は「ええ」と言葉を返す。
「やっぱり何か仕組まれてる気がします。あの人、何を考えてるんですか?」
大和は答えることが出来なかった。いよいよ妹子の意図が分からなくなってきた。彼は一体何をしようとしているのだろうか。そしてそれは何のために······。
「少し警戒しておきましょうか?」
妹子の本性を知っているからこその違和感。眉を寄せて呟いた福利に頷くと、大和は「あいつの行動を邪魔しない程度になぁ」と顎に手を当てる。あれでも河勝が認めたほどの切れ者だ。何も考えずに突飛な行動をするとは思えなかった。今更ながらに、河勝が言っていた「とんでもない魔物」という言葉が身に迫ってきた気がする。
その時、ふと視線を感じて辺りを見渡した。するとどこか見覚えのある顔が目に入る。それは裴世清に付き従っていた
言葉にならぬ違和感を覚えながら、日射しに艷めく彼の長髪を目で追いかけた。凛と伸びた背筋が真っ直ぐ地面に影を落とす。遠ざかるその背を見つめながら、大和は服の裾に付いた土埃を払い落とした。
それから十数日、遣隋使の一行は遂に朝鮮半島を後にした。一年共にした大陸に見送られた、実に穏やかな船出であった。
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