第21話 月の下で

 ここまでは、予定通りだ。


 本当はもっとあっさり捕まってくれることを望んでいたのだが、さすがは自分と同じ生産ラインで製造された個体なだけはある。こちらも虎の子の短機関銃搭載型の歩兵ロボットでかなりの銃弾を浴びせたのだが、今もしぶとく動き回っている。ゴキブリ並の生命力だ。全力で捜索にかかっているが、中々尻尾を見せない。


 アイカは、ノート型の端末を操作する。


 彼女が居場所は、基地の屋上。

 屋上と言っても、地上に出ている建物は普通の一階分くらいの高さしかないから、視界は広くない。

 だが、――月が見える場所こそ、自分に一番ふさわしい。


 モニター上では、全部で百ほどの光点が忙しく画面内を這い回っている。

 画面は淡路島北部の地図。

 アイカは忙しくキー操作を行い、光点の動作に修正を加えた。

 まだまだ、調べ切れていない部分があるのだ。


「………………」


 歩兵ロボットの武装はほとんど使えず、唯一動いた小型のテーザー銃しか武装がない。しかし、調べてみたところ、それなりに高出力だ。

 何体かで集中攻撃を加えれば、さすがのアカネも気を失うだろう。


 最後にアカネを発見した地点に二十体ほどを集結させる。

 敵影、なし。

 隠れるならきっとこの辺りだという当ては、見事にはずれることになった。


「出てきなさい、アカネ。無駄な抵抗はやめなさい」


 警備ロボットの一体を通じて、警告を送る。

 『全自動型機械化歩兵による淡路島防衛管制システム』は、この島をすっぽり覆い尽くす、強力な拠点防衛のためのプログラムだ。


 無神論者の自分でも、神に感謝の言葉を述べたくなる。

 いまの自分に、これほどおあつらえ向きのものはない。


 強固なミサイル防衛システムが生み出されたお陰で、後期の戦争では安価なロボットや人形を拠点へ送り込む戦術が主流だった。

 特に家庭用の人形・ロボットの類が犠牲になったものだが、これはその名残だろう。歩兵ロボットの多くは虫程度の知能しかないが、索敵ぐらいはできる。


 厄介なのは、――人間があいつの味方に付いた場合。

 基本的にロボットは、アシモフの三原則に基づいて人間を傷つけられないように作られている。とにかく、人海戦術をとられると勝ち目は薄くなるかもしれない。


 変に事態がややこしくなるのは、アイカも望んでいなかった。


(だが、報告によると、あいつはそれなりに第三十二国民保護隊の連中とうまくやっているらしい……)


 思考の途中で、反射的に臓腑が煮えくりかえりそうな激情が生まれる。

 唇を噛む。血が顎までたれて、コンソールにぽたぽた落ちたが、気にならない。


(うまくやる、だと?)


 自分でも感情の起伏がコントロールできず、頭がくらくらした。


(ふざけるな。自分のやったことも考えず……!)


 お前は百万回業火に焼かれても、まだ物足りないというのに。

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