第13話 消えた二人

 低い音の笛が三回。午後三時の知らせだ。


 疲労困憊して、キミタカは集合地点の噴水の前で顔を水の中に突っ込んだ。三秒ほどすると熱が冷め、このまま眠ってしまいなくなるような心地よさで、幾ばくかの気力を取り戻す。


「ぷはっ」


 周囲には、同じく疲れ切った様子の第三十二国民保護隊員が十二名。

 キミタカの仕事は入港して降ろされたばかりの、外国産の輸入品を倉庫まで運ぶ仕事だ。遠目に信じられないほど大きいコンテナ船を見た。人形が運転する、機械で品物を港に運ぶ貨物船だ。

 船が十分に離れてから、合図と共にキミタカや日雇いの労働者達がアリのように品物にたかって、片っ端から倉庫に放り込むのだった。

 服を絞れるほどに汗をかいて、キミタカはようやくの想いでこの場所までたどり着く。


 そこで、


「あー、みんなー。ちゅうもーく」


 島田がしまらない感じで手を叩いた。


「気づいてると思うが、アカネ隊員とシズちゃんがいない」


 そういえば、二人の姿がどこにも見あたらなかった。


「二人のことだから大事ないとは思うが、一部の隊員のみ、ここで待機することにする。他は予定通り、小清水一曹と共に帰還する。……居残り組は俺と小早川。以上」


 どうやら、ハズレくじを引く羽目になったらしい。

 まだ日は照っているが、二時間もすればあたりはあっというまに暗くなるだろう。夜中に運航している船もなくはないが、費用が高くつく。野宿は確定、といったところか。


(何やってんだ、アカネさん)


 キミタカは、待ち合わせ場所の噴水に腰掛けながら、深く嘆息する。

 どうにも、あの人には振り回されっぱなしだ。


 大方、どこぞでボンヤリしているだけだろうが……。

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