Day.6 双子

双子【双子と歴史のオモテウラ】

 王国にとって、魔王とその手下の魔物たち(通称魔王軍)は厄介な敵でした。王国軍は魔王軍と百年にわたって戦いを続けていましたが、決着はついていません。

 人々が長年の戦いにうんざりしている頃、一人の勇者が現れました。神託を受け聖剣にも選ばれた勇者は、仲間と共に魔王を倒すことを決意しました。勇者には戦う理由がありました。唯一の家族である双子の妹が魔王軍に連れ去られ、魔王の居城に囚われていたのです。

 勇者一行は王様や王都の住民に見送られ旅立ちました。道中で幾度となく魔物と戦い、勇者たちは魔王の居城へたどり着きます。そして苦戦の末に、あの魔王を倒したのです。囚われの身だった双子の妹は、兄である勇者との再会に喜び涙を流しました。勇者は妹と仲間と共に、無事に王都へ帰還しました。

 こうして魔王軍との戦いを終えた王国は平和になり、勇者は功績が認められて国民の代表に任命されました。勇者は国政の場でも活躍を続け、妹と共に穏やかに暮らしました。めでたしめでたし。


 と、いうのは表向きのお話です。



「もうすぐ兄が来るわ」

 地下牢で足枷あしかせをされた、囚われの身の少女は言いました。少女が牢から逃げ出していないかと様子を見に来ていたのは、上等な洋服を着ている初老の男です。男は鉄格子を挟んで少女を眺め、鼻で笑いました。

「なにを馬鹿なことを。勇者一行は今頃旅の途中。こんなところに来るわけがないだろう」

「そう笑っていられるのも、今だけよ」

 少女は男に軽蔑の目を向けて言いました。そして次の瞬間、大きな爆発音とともに牢屋内の壁が壊れました。瓦礫がれきがガラガラと音を立てて崩れ、粉塵ふんじんが舞いました。

「な、なんだ!?ごほっ……!」

 男は突然のことに驚き、粉塵が舞ったために咳こみました。一方で少女は冷静に、手で口と鼻を覆っていました。少女は驚いた様子は全くありません。壊れた壁の向こうから、いくつかの人影が現れました。粉塵が収まり、その人物を認識した男はさらに驚愕します。

「……は?勇者??なぜお前がここにいる?」

「お久しぶりですね、国王様。妹を返してもらいますよ」

 現れた勇者一行の中には、頭から二本の黒い角が生えている男もいました。見た目は若い男に見えますが、実年齢はそうでもありません。二本角の男が、初老の男へ声をかけます。

「人の王よ。お主が我が輩の仕業に見せかけて悪事を働いていたこと、とうの昔から知っているぞ。我が積年の恨みを、お主は理解できるかのう」

「お、お前は、まさか魔王か!?」

「国王様。あなたが王国軍を魔王軍と装って、妹を誘拐させ、この王城地下牢へ監禁したこと……。前から知っていましたよ。『勇者に魔王を討伐させて、国民の王への不平不満を晴らす』そんな筋書きだった。でも、僕が勇者の役を拒否した。だから……、ですよね。嫌々戦いを続けさせられていた魔王の彼に、事情を話したら快く味方になってくれましたよ」

「な、な、なにを……!」

 震える王様に、双子の妹は呆れた様子で言います。

「国王様も、とんだ間抜けよね。兄の思考回路は私のもの、私の思考回路は兄のもの。兄が真実に気がついて助けにくるって、私は分かっていたわ。──私たち双子を敵にまわしたこと、後悔しなさい」

 その後、数々の悪事が明るみに出た王様は、無一文で国外追放されました。勇者は王国の代表として国を治め、妹は兄の仕事を支えました。双子の兄妹は仲間と魔王と共に、平和に暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

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