Day.13 樹洞

樹洞【きっかけは寒い山中での】

 日が暮れた寒い山中にて、双眼鏡で樹洞じゅどうを見つめ続ける。二十分後。ひょこりと顔を出したのは、くりっとした目が愛くるしいムササビだった。

 か、かわいい!と叫びたくなるのをぐっと堪えて、近くにいた生物部顧問の先生に小声で

「先生、ムササビが今顔出してます……」

 と報告。

 私は動物は好きだが、山歩きや植物に興味はない。……興味はないのだが『ムササビが見られるかもしれない』そう聞いて、学校の生物部が企画したムササビ観察会に参加したのだ。生物部顧問の先生が主導で準備を進めてくれて、ある山の中腹のお寺で許可をもらい、こうして観察会をしている。

 初めて生で見るムササビは、もう、本当にかわいい(語彙力が乏しいのが悔やまれるほどだ)。滑空する姿もしっかりと見ることができて、私は上機嫌になる。

 夜の闇が濃くなり始めた頃、私たちは下山することになった。暗い山道を懐中電灯の灯りを頼りに歩く。企画主とも言える先生は、私の隣を歩きながらこの山に自生する多種多様な動植物について語ってくれた。植物に興味のない私でも、先生の上手な解説は面白くて、山というものに関心を抱いた。

 先生は、きっと分かっていたのだ。私が植物に興味がないことも、山に興味を持てば私の世界が広がることも。

「私が山ガイドを始めたきっかけですか?話すと長くなりますよ〜」

 登山客を前に、今日も私は笑顔で山の魅力を伝える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る