Day.20 地球産

地球産【我が家の手作り】

「お母さん!この前みんながうちに来た時に出したホットレモネード、すごくおいしかったって!クラスで話題になってるよ」

 暖房の効いた暖かい家の中で、学校から帰宅した少年は誇らしげに母親へ報告した。母親は微笑む。

「そうだったの。あのレモネードは、うちの庭木のレモンで作ったからね。お母さんのおまじないが効いたのかしら?」

 おどけたように話す母親に、少年は明るく笑う。

「あはは。そうだ!今度、隣のクラスの友達も連れてきていい?きっとお母さんのレモネード、気にいると思うんだ」

「んー、そうねぇ」

 母親は少し考え込むように、軽く腕を組んだ。

「あのレモネード、有名になったら困るのよね」

「えっ。どうして?」

「……あなたがもうちょっと大人になって、この星のことが分かるようになったら教えてあげるわ」

 窓から見える庭では、立派なレモンの木がいくつかの黄色い実をつけて静かに佇んでいた。




「母さん。レモネード、ある?」

 青年はダイニングからキッチンに立つ母親へ問いかけた。

「あるわよー。昨日漬け込んだから、きっと今頃いい感じになってると思うわ」

「そういえば、庭木のレモンだけどさ」

 母親は冷蔵庫からガラス瓶を取り出す。中身は砂糖と蜂蜜と一緒に漬けた、輪切りレモンのシロップ。

「あれって地球産のレモンなんだよね。──違法栽培の」

 ぱたん、と冷蔵庫の扉を閉めた母親は、青年へ振り返ってニコリと優しい笑みを向けた。

「そうよ〜。だからあのレモンのこと、あんまり口外しちゃダメよ」

「あー、分かってるよ。てっきり、品種改良されたレモンだと思ってたけど……。地球産の植物は有毒だから、この星へ持ち込めないって学校で習ったよ。どっから手に入れたの?」

「あなたが生まれた時にシンボルツリーに、って毒の無い苗をプレゼントとして送ってくれたのよ。ほら、地球で一人暮らししてる私の弟」

「あぁ、あの叔父さんか」

「この星では四季も再現されてるし『シンボルツリーとして庭木にはぴったりだろう』って、こっそりね。地球産のものは有毒と思われているけれど、全部が全部そうじゃないのにね。……人間が考えている以上に、植物って力強いのよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る