Day.15 オルゴール
オルゴール【オルゴールをあなたへ】
「先輩。今度の週末、お誕生日でしたよね」
部活中にいつも氷のような表情で常に一人でいる、一匹狼のような後輩。そんな彼女が昼休みにわざわざ私のクラスまでやってきて、声をかけてきたので驚いた。
「え、うん。そうだけど……」
「これ。どうぞ」
ラッピングされた小包を差し出された。半ば押し付けるようにして渡されて、戸惑う私。
「えっと、誕生日プレゼント?もらっていいの?」
「はい。それじゃ、また部活で」
彼女は表情を変えずに言うと、お辞儀をしてから去っていった。嬉しい、というよりもびっくりした、という感情の方が大きくてお礼を言いそびれてしまった。
なんで、私に誕生日プレゼントくれたんだろう。
部活中に他者と関わろうとしない彼女が心配で、副部長の肩書きもあって、なるべく声をかけていたのは事実だけれど。私が話しかけても眉ひとつ動かさないので、なんとも思ってないんだろうな、と感じていたのだが。
とりあえず自分の席に戻って、中断していた友達との昼食を再開する。
「ねえ、誕生日プレゼントもらったんでしょ?中身なんだろうねー?」
「あぁ、うん。食べ終わったら開けてみようかな……」
一連のやりとりを見ていた友達と、お弁当を食べながら会話する。あの子、なにをくれたんだろう。その辺なにも言ってなかったからな……。
考え事とお喋りをしながらだったので、母が作ってくれたお弁当の味はよく分からなかった。
食後、小包を開けてみた。ペリペリ、ガサガサ、と包装紙を剥がしていく。白い紙製の箱が出てきた。二重に包まれていたみたいだ。さらに開けると中から出てきたのは、小さめの……ジュエリーボックス、だろうか。白を基調としたアンティークのようなデザインで二段構造になっていた。
「綺麗……」
ポツリと呟き、何気なく上段の蓋を開けてみた。すると、隅に鈍い金色のネジ巻きを見つけた。ネジ巻き……?
隣の席から覗き込んでいた友達が、それオルゴールじゃない?と一言。
「オルゴール……?」
「ネジ、回してみたら?」
促されて、ネジ巻きを回す。するとオルゴール特有の高く澄んだ音色のメロディが流れ始めた。聞き覚えのある曲だった。ただタイトルは思い出せない。
「これ、なんて曲だっけ」
私が首を傾げていると、友達がにやにやと笑っている。なに、その意味深な笑顔は。
「後輩ちゃんから感謝されてるんだねぇ。部活で良い先輩やってるんだ〜」
「……どういうこと?」
「オルゴールをプレゼントするのって『あなたに心から感謝してます』って意味があるんだよね。しかもその曲って、××ってアイドルグループが感謝の気持ちを伝えたくて作った曲でしょ。歌詞にもそうあるじゃん」
物知りな友達の言葉に、私の思考回路は数十秒停止する。あの子が、私に、感謝……。
「え。……えぇー!?」
思わず教室で叫んでしまった。
その頃、廊下を歩く後輩の頬と耳が赤くなっていた、なんて、私は知る由もないのだった。
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