Day.10 誰かさん

誰かさん(1)【誰かさんって】

 同い年の幼馴染みと、久しぶりに寿司を食べに行くことになった。もちろん、寿司と言っても回るお寿司──回転寿司である。

 幼馴染みは異性だが幼い頃からのご近所さんなので、大学生になった今でも親しい。まあ、妹のような存在だ。

「あー、お寿司なんて久しぶり!」

 店に入り通された席へ座ると、幼馴染みは嬉しそうにタッチパネルを操作し始めた。

「ん?注文するの?寿司、たくさん流れてるのに」

 レーンを流れてゆく数々の寿司。最初はマグロが王道かな。俺はさっそく手を伸ばした。

「知ってる?このチェーン店、だし巻き卵が美味しいんだけどレーンには流れないの。タッチパネルで注文すれば熱々できたてが届くってわけ」

 慣れた様子で注文していく幼馴染みの指先に、視線が止まった。あれ、昔から男勝りなやつなのに……。ネイルなんてしてたっけ。

「いや〜、誰かさんの好みがうつっちゃってさぁー」

 どこか嬉しそうに喋る幼馴染みの頬は、ほんのり赤く染まっていた。影響を受けたであろう、その誰かさんって誰?と問う勇気はなくて。

 昔から、自分が一番近くにいると思っていた。なのに。いつの間にか、幼馴染みが遠いところへ行ってしまったようで。

 チクリ、と小さな棘がどこかに刺さった気がした。

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