タロウの疑問
連日のニュースは、横浜であったサミットを狙ったテロ事件の話で持ちきりだった。
「っち、くだらねえ! どうして誰も自分で真実を調べようとしねぇんだ。用意された情報にホイホイ飛びつきやがって」
ムシャクシャとタバコを地面に投げつけ踏みつける。それをハナコが拾い灰皿へと捨てる。
「落ち着いて下さい。気持ちは分かります、こう連日連夜小沢一家を
ハナコはタロウのスーツの袖口を掴み、
タロウの怒りは、それだけが理由では無かった。上に小沢時寺が危険だと報告した時、『裏は動かずに監視せよ』と言われ、鵜呑みにしてしまった己の不甲斐なさにも憤慨を感じていた。何のことはない、警察に小沢さんを逮捕させ、『烏』はその間も着々と準備を進めていた。
「小沢さんを脅し、各国の首脳を暗殺させる。こんなやり方組織の行動理念に反してるじゃねぇか!!」
組織の行動理念は一貫していた。『全ては日本の為に』だった。その為なら手段は選ばない。それはタロウも理解していたはずだ。
「タロさん、それは貴方が小沢さんと関わり、調査の段階であの家族を深く理解してしまったが為の怒りです」
ハナコはタロウの怒りが
「どうか鎮めて下さい。貴方が道を踏み外さないように」
手はタロウの袖口を掴んだまま、オデコをタロウの二の腕にあてる。タロウからは見えないが、泣いていることに気付く。
♦︎♦︎♦︎
二人は小型の船に乗りある場所へと向かっていた。組織には別件の調査中と嘘の報告書を出していた。
「本当に居るんでしょうか?」
風を切る音とエンジン音に負けないように声を張って話す。
「知るかっ! 可能性が高いってだけだ。奴は歳のわりに考え方が幼い」
空白の五日間に何をしていたのか質問した際、『山で修行してました』と聞いていたタロウ。発想が子供だと感じたことを思い出す。
「今の状況なら人が居る場所には行かないだろうっ!」
既に奥多摩山域にある、トットが話た修行場には行って確認していた。
「横浜から近く、人も居ない! 悲しみに浸るには打って付けの場所だ、ここじゃ無いなら俺はもう分からんっ!」
舵から手を離しお手上げのポーズをする。そのままタバコを取り出し火をつける。
二人を乗せた小型船は横浜から遠く離れた無人島へと向かっていた。
♦︎♦︎♦︎
トットは一人砂浜に居た。
毎日海を眺めていた。
トットは死ぬつもりだった。当初は直ぐに二人の後を追うつもりだったが、簡単に死ぬことは二人の死に対して釣り合いが取れていないように感じ、餓死することを選んでいた。
徐ろに海面に輝くモノが見える。トットはスッとこちらへ引き寄せた。それは海に捨てられたプラスチックの容器だった。
「こんなに離れていても、ゴミは流れ着くんだなぁ……」
二人が眠る場所をキレイな状態にしておきたかったトット。立ち上がり、海の中に沈んでいるであろうゴミを意識し持ち上げる。
次々と集まるゴミの数々。ビニール袋や漁師が使う網、空き缶や傘やストローや発泡スチロールやら、何やらかんやら次から次に集まり、大きなゴミの球体になる。
「これは酷い……」
誰がこんなにと考えていると、家族との思い出が蘇る。
家族三人で近くの公園に出かけた際、喉が乾いたとミーが言ったので、近くのお店でカップに入ったジュースを三人分買った。ストローを自分であけると言い、ストローの入っている透明な袋を一生懸命開けていた。その時ミーの手からゴミが落ち、風に飛ばされてしまう。
私はジュースを飲みながら、拾いに行こうともせずにその光景をぼんやり見ていた。するとカカさんが
「ゴミはゴミ箱に! ちゃんと出来るわね、ミー」
戻ってきたカカがそう言ってゴミをミーに手渡す。「はーい」と返事してゴミ箱にかけて行く。
「そうかぁ……誰がじゃ無い、きっと私が捨てたゴミも入ってるんだろう」
ゴミの球体を極力小さく潰し、砂浜に下ろす。
「相変わらず、凄い能力だ」
タロウが話かける。上着は脱ぎ、腕を捲り上げ、汗だくの状態だった。後ろから同じように汗だくのハナもついて来ていた。
「醜い力です。何かを生み出すと期待していましたが、何もかも奪い去られました」
トットは木村を見もせず、視線はゴミ玉に注がれたまま返事を返す。
「貴方達は私から全て奪い、まだ何か用があるのですか?」
「小沢さん、貴方に質問があって来ました」
追いついたハナがトットに言う。
「ほっといて下さい。答えることなんてありませんよ、私はただ三人で静かに待ちたい……」
ハナが何か言おうとするがタロウが手で止める。俺が話すと視線で言われ、静々と引き下がる。
「小沢さん大事な話です」
トットの正面に周り、膝をつき真剣な表情で見つめてくる。ジジのことが頭を過り、話だけでも聞くことにする。
「……なんですか? もうあまり時間がありませんので、手短にお願いします」
小沢の状態を確認する、唇や肌はカサつきひび割れている。指先は小刻みに震え、今にも倒れそうだと思う。
「小沢さん、貴方はあのサミットがあった日」
「烏に家族を殺された日」
「あれ程の破壊活動をしたにも関わらず」
視線が合うのを待つタロウ。ゆっくりとトットの視線がタロウと交わる。
「何故、誰一人殺さなかったのですか?」
「……そんなの決まってるじゃないですか。みんな誰かの子供なんです。あんな思い、私一人で充分です」
震える指先で、ボリボリと頭をかいていた。
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