四人の馬鹿と一羽の烏

 とある秘密組織会議室


「……以上が、小沢 時寺とうじに関する報告になります」


 木村タロウは倉庫での一件を終え、上層部への報告に来ていた。無駄に広い部屋の中は暗く、木村だけが淡い光に照らされていた。


A 「では君は、彼がだと考えているんだな?」


 四人が木村を取り囲む様に座っていたが、距離もあり部屋の暗さも相まって顔を認識することは出来なかった。しかし並外れた記憶力を持つ木村、声の調子トーンから四人全員が誰なのかあたりをつけていた。今喋ったのが元大物政治家の


B「ふんっ! くだらん。たかが一般人がちょっとモノを浮かせた程度で、我等が気にするのとかっ!」


 この威圧的態度の男が、陸上自衛隊の元陸将だった


C「やあね、男はすぐ大きな声を出して威圧する」


 今喋った八十路やそじすぎの女が、女性初の某銀行の頭取まで登り詰めたやり手。木村も尊敬していたが、メディア露出が増え大暴な態度が目につくようになった、まぁ


D「全くです。我々は組織のに立つ人間として節度ある態度を示さねばなりません」


 ちょっと甲高い声の男、大手新聞社の社長を務めていたが横領がバレ引退している


 この4人は良く裏の組織の表として矢面やおもてに立っていた。実際に重要な決定は別のが下していたが、その姿を見た者はいなかった。トカゲの尻尾切りよろしく用意されたのがこの4人だ。逆に考えるなら当て馬でこの面子を揃える組織の底の無い暗闇に恐怖すら感じる。


「報告したように、彼の危険性は日々増しています。それに彼が動画をネットに垂れ流していたせいで、かなりの人数が危険性にも有用性にも気付いているはずです」


 今ではトットのチャンネルは、登録者数千万人を突破していた。


元政治家「その通りだ、それを一早く気付いたのは私の孫だった、驚いたよ。組織から調査するよう言われた数時間後に、孫娘から彼の名前が出た時はね」


 クックックと笑い、嬉しそうな様子だ。


元頭取「そうなのかい? まぁあの子は伸びるよ、くだらないテレビ局何か辞めてアタシに預けてくれりゃ、直ぐに一流の女にしてやるさね」


 キラキラと全身に散りばめられた宝石や貴金属が鈍く光る。


元政治家「クックック馬鹿言うな、孫は既に超一流だよ」


 ニヤニヤしっぱなしの元政治家。


元陸将「あんっ! お前ら何の話ししてんだ? それよりコイツを捕まえるぞ、自衛隊に連れてきゃ色んなことが出来るだろうよ!」


 確かに木村も、トットの力を軍事利用することを考えていた。彼を利用すれば他国への抑止力になり、いつまでも頭を押さえつけるアメリカとも対等に話ができるようになるだろうと。だが、それはわずかばかりの時間の話だった。ひと月と持たず、手に負えなくなる。


元陸将「あいつがいりゃ燃料費の削減になる! 重たい荷物もちょちょいと運ばせりゃ良い!」


 がっはっはっと盛大に笑い声が響く。筋肉馬鹿がと小声で言い、頭が痛くなる木村。


元頭取「そんなことより彼の存在を世界に大々的に発表すれば良いのよ、日本の紙幣の価値はうなぎのぼりに上がるでしょうよ」


 これはひと財産稼げると、嫌らしい笑声を上げる。守銭奴しゅせんどめと先程よりちょっと大きな声で呟く木村。


元政治家「それは良い、では最初に気付いた孫娘には何か勲章でも送らねばな」


 脳内、孫、いっぱい。


この場にとどまる意味が無いように考え始める木村。


元犯罪者「そんなことよりも、私の部下の掴んだ情報によれば、幾つかの国が小沢氏を確保すべく動き始めたと。我々も早急に決め、対処するべきです」


 まさかのまともな意見に涙が出そうになる。脳内にて『元犯罪者』呼ばわりしたことを謝る木村。


筋肉バカ「何だとっ! そりゃどこの国だ?」


 ガンっとテーブルを叩き立ち上がる。


元社長「私の掴んでいる情報だけでも、中国・ロシア・アメリカ・フランスの4カ国、それにインドの動きも怪しいです」


 パラパラと資料をめくる音がする。


金バカ「あらあら、いつもの国々ですわね。金に対しての嗅覚が鋭いったら、嫌らしい国ね」


 どの口が言っているのか……、聞こえないように舌打ちをする木村。


孫バカ「では早急に決めるとしよう。私は『確保』して組織の管理下に置くことを勧める」


 提案し、スッと手を上げる孫バカ。


筋肉バカ「おうっ! 確保つんなら陸自に任せとけっ! モヤシみてえな一般人、直ぐにでも捕まえてやりゃ」


 豪快に手を上げる筋肉バカ。


金バカ「もっと表に出すべきなのに、……幾ら稼げると……もうっ仕方が無いわね」


 渋々手を上げる金バカ。


元社長「わたくしは元より異論ありません」


 元社長が手を上げ、四人の手が出揃う。満場一致だった。


孫バカ「では、早急に確保す——」


 その時部屋の暗闇から一人、スーッと孫バカの隣に現れる。スーツを着た細身の初老の男性だった。男は元政治家にヒソヒソと耳打ちする。


 木村は額から汗が噴き出ていた。男が発する異様なまでの雰囲気に、細胞が警鐘けいしょうを鳴らしている。


( 気付かなかった?!……奴は最初から部屋にいたはずだ! なのに……訓練も経験も積んだ俺が見落とすなんて、ありえない……)


孫バカ「……ふむっ、あぁそうですか、はい、承知しました」


 男は何かを告げ、スーッと暗闇に溶け込む。四人は彼の存在を知っていたのか、緊張しているが驚いた様子はない。


「あぁ、みんな聞いてくれ、『からす』より通達があった。今回の件、が動くそうだ。裏は動かずに監視せよと、仰せつかった」


 孫バカは、烏より聞かされた内容をみんなに話す。途中木村の方を見やり一瞬顔をしかめるが、話を続ける。


筋肉バカ「表ってどっちだ? 自衛隊か? それとも警察かっ!!」


 自衛隊だろうと言わんばかりに、身を乗り出す。


孫バカ「警察だ、自衛隊も動かす可能性はあるが、裏ルートじゃ無く、あくまでも表の自衛隊だろうよ」


 くそうっ! と悪態をついて席につく。折角の出番がとか軟弱警察で大丈夫か? とか、ブツブツと喚き散らしている。


元社長「まあまあ、日本の警察は世界トップレベルに優秀なことは証明されていますし。我々は決定に従い、もしもに備えバックアップの体制だけは整えておきましょう」


 少し甲高い声で、筋肉バカをなだめる。やはりこのメンバーの中で、唯一信頼にたり得るのは彼だけだろう。木村は確信する。


孫バカ「あっ、それと。組織の金を使い込んでいる件で、後で『烏』から話しがあるそうです」


 元社長に、冷酷に告げる。


バカ「ひっひぇーーー!!!」




 早くタバコが吸いたい。


 世知辛せちがらい世の中だぜと、心で呟く木村。













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