飛べないアヒル

「はい、本日も始まりました! サイコキネシス挑戦動画。何と今回で十回目の動画投稿になります!撮影前に確認したところ、登録者数も十人と二桁に突入いたしました!」


 いつもと変わらないテンションで始まる。相変わらずくたびれた白いタンクトップとボサボサ頭の出立いでだちである。


「十回目と十人達成記念で、何かいつもと違う事に挑戦したく十キログラムのダンベルを購入したいと、妻に相談した所、心良く断られました! ですので家の中で十が付く数字を探した所、実家から送られてきたお米を発見しました!!」


 パチパチと拍手する。


「いや〜親ってありがたいですね! 実に美味しそうな白米です。正直手で持ってもキツイのですが、本日はこのお米をサイコキネシスで持ち上げたいと思います!」


 確かに十キログラムを持ち上げるには厳しそうな二の腕に、力拳を作り満面の笑顔をカメラへと向ける。


「え〜、全身の血液をエネルギーだと思い、挑戦したいと思います! それでは期待してみて下さい!」


「ほあ〜〜!」「うぉーー!」「があ〜!」

っと大きな声でうなる。当然お米が浮くことは無かった。


「え〜、本日もダメでした。ゴメンなさい」


 頭を下げるトット。


「ただ、タダですよ! 私の大好きなマンガに『水見式』と言うのがありまして、もしかすると私は変化系の能力があるかもしれません! 後で食べて確認してみます!」


 ゴソゴソとちゃぶ台の下から画用紙に書いた手書きテロップを取り出す。

 テロップには『後でスタッフが美味しく頂きました』と書かれている。これはウケるだろうとドヤ顔で出すトット。後ろを通り過ぎながら妻が旦那の頭を叩いていく。


「ちょっとカカさん痛いって!!」


 頭をさすりながらクレームを入れるも、妻の表情を見て凍りつく。


「まあ、そんなこんなでまた明日! またね!!」

 

 手を振り動画は終了する。


再生数二十六回

登録者数九人

コメント欄


サブイボ氏

「登録者数減っとるがな笑」


フェチリスト

「奥さん顔見えないけどスタイル良い!!」


亀吉

満腔春意まんこうしゅんい



♦︎♦︎♦︎



「どうもこんにちは自称サイコキネリストのトットです!」


 ペコリと頭を下げる。


「早いもんで初めての配信から一ヶ月が経ちました。伸びない登録者数! 増えない再生回数! 上がらない物体! っと、心が折れそうな三拍子揃っております! メンタルは強い方だと自負じふしておりますので、心配せずとも動画は続けますよっ!」


 誰も心配していないと声が聞こえてきそうだが、意にも介さず続けていく。


「本日は鳥の羽、羽毛ですね! うち一丁前に羽毛布団使ってるんですが、それがねちょっと古くて、チラチラ破けております」


 ケラケラと笑い声を上げる。


「まあお金無くても笑って暮らせるなら良いんですよ! そんな思いのこもったこの羽毛に、本日の運命を託したいと思います!」


 そう言うとちゃぶ台の中央に羽毛をそっと置く。血走った目でいつもの様にてのひらをかざし、うなる。三十秒程たった頃に羽毛がスッと横に流れる。


「うぉっ、うううぉっっ!! 動いた! 動きましたよ!! って、カカさん撮影中に洗濯物干さないでよっ! 風で羽毛動いちゃったじゃないの」


 撮影中に洗濯物を干した妻にクレームを入れる。無言の妻に対し、小声で「後で干します」と頭を下げている。


「はい! 本日の挑戦もダメでした。折れるな私! くじけるな私!! では洗濯物を干さないといけないので、本日の挑戦はこれまで。またね!」


 恐る恐る、手を振り終わる。


再生回数六十七回

登録者数二十一人

コメント欄


正すタダシ「クソつまらない動画早く辞めて下さい」


サブイボ氏

@正すタダシ「ワイは結構好きやで」


亀吉「問答無用もんどうむよう



♦︎♦︎♦︎



「いえーーーーい! パチパチパチ! とうとうこの動画も百回を迎えることが出来ました!」


 長袖のシャツに身を通し、いつもより清潔な服装の出立。髪は相変わらずボサボサだがいつもより短く刈り上げられている。


「これも皆さんの応援のおかげです! 最初はどうなることかと思いましたが登録者数も三百人を超え、わたくし調べでは順調なペースでございます!」


 後ろでミーも拍手をしている。父親に似たボサボサの髪を二つにい、赤いワンピースを着ている。


「最近ちょこちょこ出てますが、今日は娘のミーもサイコキネシスに挑戦するということで、二人で挑戦したいと思います!!」


パチパチと楽しそうに拍手を送る二人。


「では本日挑戦する物はこちら『ドンっ!』ぬいぐるみでございます!」


ミーが、どこからともなくぬいぐるみを抱え走ってくる。それはミーには大きくトットには小さいアヒルのぬいぐるみだった。


「この前ですね、ミーが買い物中にぬいぐるみを欲しがってですね、持ってきたんですよ。ただ私ね〜、もっと可愛いのにしたらって言ったんですけどこれが良いって……」


 ちゃぶ台に置かれたアヒルのぬいぐるみの頭をでながら喋る。


「娘が言うには、鳥だったらトットの力で飛ぶかもよって……もうね、眩しすぎて見れませんよ……目が綺麗すぎてね、世の中の汚い物全部削除したい……、まあ良い子すぎて本当に私の遺伝子かってね!」


 小さな声で「私の遺伝子多めね」とカカさんの声が聞こえてくる。


「全く持ってその通り!! 感謝してますよカカさん!」


 クスクスと笑うカカの声。


「じゃせっかくなんでね! 今日はカカさんも入れて三人で挑戦しましょうか!」


 やったーと両手を上げて喜ぶミー。画面には映っていないが、嫌がっている様子がうかがえるカカ。


「良いから良いから、画面映らなくて良いから。先っちょだけ、手の先っちょだけこっちにかざしてくれるだけで良いから」


 説得するトットと嫌がるカカで十数秒ほどやり取りがあり、渋々しぶしぶ画面にカカの手が映り込む。


「オーケー、ありがとう。今日の晩ご飯は俺が作るから! うんうん! あっ明日も?? オーケーオーケー! 承知しました! ではでは皆さんお待たせしました、なんだか今日は浮きそうな気がしますね〜」


 いつもより嬉しそうな表情のトット。心なしか手にも力が入っている様子だ。


「はいっ! 二人ともエネルギー送ってー!!」


 「エネルギーって何?」と笑うカカ。父親の真似をして頑張るミー。カカが十秒程で耐えきれずに画面から手が消える。


「ちょっとカカさん、もうちょっと頑張ってよー。えっ? これ以上は耐えられない? このままやると私がご近所から浮いてしまう?? カカさん、上手いこと言うねー!」


 親指を立て、カカに向ける。


ティッシュの箱がトットの顔に飛んでくる。


「えー、ミーも頑張りましたが、今日もダメでした。妻の機嫌を直さないといけないので、今日の動画はこれにて終了します! またね!!」


 鼻の頭をさすりながら、鼻声で終わりの挨拶を済ませる。横に立つミーは満面の笑顔で手を大きく左右に振っている。


再生回数五百二十八回

登録者数三百十二人

コメント欄


空白

「この演者のファン比率。ミーちゃん目当て70%、夫婦漫才20%、アンチ9,99%、トットが本当にサイコキネシスに目覚めると思っている人0,01%」


阿弥陀如来

@空白

「わろた」


サブイボ氏

@空白

「ワイはトット氏のファンやで、ただし浮くとは思ってへんけど」


サルマール

@空白

「私もトットさんのファンですよ!!目覚めるとは欠片も思っていませんが笑」


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