初心
「え〜どうもトットです。本日は〜何回目だっけ? もうすぐ一年ってところですかね!」
画面中央には、いつもの様にヨレたタンクトップにボサボサ頭の
「今日はですね、初心に帰ってティッシュでやりたいと思います」
「えっ? 前にもやっただろうって?? 馬鹿言ってんじゃないですよ! 私なんてね、平凡な人間ですよ、
ヘラヘラと笑うトット。
「皆さん、そんな私にアイデアを下さい!!」
ちゃぶ台に頭をつけ、
「アイデアは下のコメント欄でお願いします」
人差し指を下に向け、左右に動かす。機械音痴のトットも、一年近く続けると小慣れてきたようだ。
「五百人位までは順調だったのに、伸び悩んで私も悩んじゃいます……、そんな暗黒面に落ちた今日の私なら、もしかしたら成功するのでは? と、今日はこんな感じで進めたいと思います」
ペコリとお
フワフワとティッシュがちゃぶ台から離れ、浮かび上がる。
多少揺れているが風に吹かれている様子ではなく、糸で吊り上げられる様子もない。ちゃぶ台に置かれたそのままの形で、台から十センチ程浮いている。
「えーそんな感じで本日の挑戦もしっぱ……、うわっ!!」
締めのコメントをしつつ視線をティッシュへと向ける。いつもと違う状態のティッシュに思わず声が
「…………えーっと、……あれっ?? 今浮いてたように見えましたね?? あれっ? うん、あれっ? ああ……そうか、どっか窓が開いてたかな?」
立ち上がり画面から消えて行く、スタスタと部屋を歩き回る音がする。画面に半身がうつった状態で立ち止まると「換気扇か?」と呟きまた画面の外へと消える。
「カカさんもミーも居ないしな……?」
ちゃぶ台に身を乗り出しカメラの下に落ちたティッシュを拾い上げる。左右に揺らし、普通のティッシュだと確認する。
「えーっと、もう一回やって見ますね!」
そう言うと今度はしっかりとティッシュに顔を向け、
スーっと浮き上がるティッシュ。
「わっぷっ!!」
叫びそうになる口元を、
思考が停止する。時間にすると数秒の時間だった。部屋には変な緊張感が
現状を確認し、そっと口から手を離す。
「……えっとですね、皆さん見えていますかね?? 何故かティッシュが浮いています、 あれっ? 何だろうこれ……、浮いてますよね?」
口を押さえていた方の手でティッシュの上下左右を確認する。糸で吊り上げられた様子は無い。
「えっと、成功してるみたいですね……。ふふっ、何だこれ??」
直面した現実が受け入れらず、口から笑いが
「えっと、ちょっと映像を確認して見たいので今日の動画はこれまでです」
カメラに手を伸ばす、いつもの「またね」を言うのも忘れているようで、そこで動画は終了する。
再生回数四千八百四十二回
登録者数五百八十三人
コメント欄
サブイボ氏
「やったな」
ザール人
@サブイボ氏
「やったね! じゃなくてやったな? てか何この動画?」
サブイボ氏
@ザール人
「割と初期から観てんけど、最近ユーザー増えへんから何かトリックつこてやってん。タネは分からんけど。とうとうやったなって意味」
ザール人
@サブイボ氏
「そうなんですね、合成ですかね??」
チキンとミート
@サブイボ氏
「やりましたね」
母からオカカ
「やりやがったな」
いつもココから
「誠実さが売りだったのに……やったな!」
新鮮な組
「お主やりおったな!!」
ナスカ
「誰も信じて無くて草」
・
・
・
・
亀吉
「
♦︎♦︎♦︎
「はい! 今日も始まりますよ!! サイコキネシス挑戦動画パチパチパチパチ!」
口でも効果音を口ずさみながら激しく掌を打ち付ける。
「いやー! 前回の動画見てくれましたか? 見てない人は直ぐみて下さい! やっちゃいましたよ、私。とうとうサイコキネシスに成功しました!!」
そう言うとまた拍手をする。
「あの後何度もやって見たのですが、これがまぁ面白いように浮く浮く。ご近所での私の立ち位置より浮いてましたね!」
ケラケラと笑いながら妻のコメントをパクる。
「カカさんにもミーにもジジさんにも見てもらいましたよ! ジジなんて天に召されるんじゃないかと思うくらいビックリしてましたね!」
縁起でもないことを言いつつ盛大に笑う。いつもよりテンションがグッと上がっている様子だ。
「いやー、自分でもビックリですよ。これね、ほんとーーーにタネも仕掛けもございません! 私の命掛けます! トリックや合成じゃあございませんっ!」
ビシッと人差し指を画面に向ける。
「そもそも私に合成するような知識も技術も無いんですよ! 動画だと証明するのが難しいですが。まあそんなことより今楽しくってね! 家にある色々な物を浮かそうとしたのですが、まあ浮かない!」
ケラケラと大声で笑う。
「ティッシュ以外で浮いたのは、羽毛だけ。これじゃカッコ良くないでしょ? 何の役に立つのかって話しですよ! 『トトさんティッシュ取ってー。はーいカカさん行くよー』ってアホかっ!」
下手な一人芝居と突っ込みを見せられる。
「まあ、こうなると後は修行ですよ、
画面の向こうは爆笑でしょって感じでチラチラとカメラ目線になる。
「まあそんな訳で
パチパチと本日三回目の拍手を自らに送る。
「んでね、私気付いたんですけどね。昨日持ち上げたティッシュ
カメラの目の前で、重ねてあるティッシュを二枚に分ける。
「今日動画撮る前に試してみたら、重ねてある状態でも浮いたんですよ!! 成長だな〜、亀吉さん風に言うなら
ケタケタと笑うトット。
「まあどっちにしろ微妙なんですけど、どうも成長してるみたいなんですよ。私のこのウルトラ超絶スーパー超能力ね!」
「そのうちね、ガーっと車でも浮かせて見せますよ! 私のチャンネルガンガン伸びますから! 今後も皆さん末永くお願いしますね」
深々と頭を下げる。そのままカメラに手を伸ばすが、思い出したかのように
「あっ、忘れてた。ではまたね!」
そう言いながらちゃぶ台に乗せられたティッシュを難なく浮かばせ、手を振り動画は終わる。
再生回数七千百九回
登録者数七百一人
コメント欄
ビスまる子
「くそうwトリック分からんww」
PPv「いつもよりテンション高めでおおくりしました」
ナスカ
「よく分からんけど夢のある動画、チャンネル登録しました!」
ハピネス
「うちの冷蔵庫の裏に落ちたティッシュの回収お願いします」
亀吉
「
♦︎♦︎♦︎
ヒラヒラと
「はい! どうもトットです!! 今日は見て分かるようにオープニングから浮かせております!」
トットの周りには百枚程のティッシュが
「これね、手をかざさなくても動くんですよ。初めて浮いてから一週間、色々と試して見ました! 綺麗でしょう、これやるとミーが喜ぶ喜ぶ。まあカカさんにはしこたま怒られましたがね」
大きく口を開け笑う。
「まあ、このティッシュは捨てずにちゃんと使いますよ! スタッフでね、家族でね? 夫婦で……、カカさんと正しく使いますよ!!」
やってやるぜと握り拳を前に突き出す。
「修行ってもっと大変なのかな〜って思ってたんですけど、全然そんなこと無いですね。何か寝て起きると上がってるんですよね。この内なるエネルギーが!」
見たくもないドヤ顔を披露する。
「最近だとそこそこ重たい物でも浮いちゃいます」
そう言うと、近くにあったミーの帽子や靴下を持ち上げる。何十枚かのティッシュはヒラヒラと床に落ちる。
「どうもトータルの重さっぽくて」
落ちていくティッシュを横目にトットが言う。
「一度に持ち上がる数に制限は無さそうなんですが、重量は決まってるっぽくて。まあ計算苦手なんで分かんないですけどね」
ポリポリとボサボサの頭を掻く、少し恥ずかしいのか笑って
「しかもこれ疲れないんですよ! どうも無制限っぽくて、眠くもならないしお腹も減らない、勿論肉体疲労も感じません! 何のエネルギーを使ってるんでしょうかね??」
誰かが答えを知っているかのように質問する。
「カカさんもミーも喜んでるし、私も楽しいんですけどねー。私って何なんですかね??」
少し
「まっ、いっか! どうにかなるでしょ!」
ケタケタと笑い声を上げる。
「ではでは今日もご視聴いただきありがとうございます! またね!」
手を振り、ティッシュが舞い、動画は終わる。
再生回数三万九千八百二十三回
登録者数四千二百十九人
コメント欄
サブイボ氏
「ワイは信じてるで、トット氏はワイと同じ平の凡人や。絶対タネがあるはず」
クイーン丸
@サブイボ氏
「でも今日の動画なんてCGでも使わないと不可能ですよね??」
人生ポイ捨て
「CG乙消えて下さい」
カール1世
「↑言い過ぎお前が消えろ」
明太子リスト
「こええええええ。これまじバナっすか??」
昭和区平成村
「日本もここまできたか」
亀吉「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます