穴に落ちる涙

 内部から吹き荒れる嵐の様に、国立大ホールが瓦解していく。トットは持てる全ての力を振るい、一つ又一つと破壊していく。六十トンを超えるエネルギーの渦は止まるところを知らず、目に見える全ての物を破壊し続けた。


 一歩、また一歩とあゆみを進める。その足取りは重く、向かうべき場所が心底恐ろしかった。


 徐々に崩れ落ちる建物は、トットを避けるように逃げ出し、外へ外へと飛ばされる。


 被害の規模は国立大ホールの外側へも影響を及ぼし、近くにそびえる建物達は、徐々に削り取られる様に破壊され、堂々たる姿を維持することが出来ずに倒壊していった。


 永遠にも感じる時のなか、未だにその形を維持する三階バルコニーの前へと辿り着く。


トットの行手を拒む様に、立ち塞がる透明な壁。二度、三度と破壊を試みるが壊せない。壊すことを諦め、繋いである壁ごと持ち上げ取り払う。


 そこに二人の姿は無く、穴のように見える血溜まりだけが、夢で無く現実であったことを知らしめていた。


「ごめんなさい」


 そう一言呟き、二人の血液を集める。


血液があたかも二人であるかのように、抱きしめる。


 瓦解したビル群の中、その頂にて泣き叫ぶ男


「わぁあああああああ〜んっ!!」


「わああぁああああっん!!!」


 血に塗れた両掌を抱え、苦痛に泣き叫ぶ……。


 夜の帳が、男の姿を包み隠しても


 悲痛なる言葉だけが、おんおんと鳴り響く。

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