第2章

第10話:幼馴染

「陛下の命で援軍に参りました、宜しくお願い致します」


 私の前には兄上が援軍として送ってくださった、騎士隊の隊長がいます。

 昔からよく知っている、心から信じられる忠勇兼備の騎士です。

 兄上と同年で、兄上と私の幼馴染といえる人です。

 ファーブス騎士家のオリヴァー、彼が騎士長十騎、騎士百騎、従騎士千騎を率いてくれています。


「オリヴァーが来てくれたのはとてもうれしい事ですが、兄上の護りは大丈夫なのですか、それが一番大切なのではありませんか?」


 兄上は近々大公を名乗る予定になっています。

 兄上に味方した貴族達が、伯国のままでは臣従した時に爵位を名乗り難いという事で、彼らが推戴する形で大公に戴冠するのです。

 そうなれば、今まで友好的だった隣国も警戒するでしょう。

 最悪領内に侵攻してくるかもしれません。

 当然その時には、ドランク王家も兵を向けてくるでしょう。


「その点は大丈夫でございます、エーファお嬢様。

 今回率いてきた者達は、傭兵や冒険者を騎士に登用した者が半数もおります。

 閣下を御守りする騎士団は、まだ九個騎士隊もございます。

 隣国が攻め寄せて来ようとも、領内には一歩も入れません。

 問題はドランク王家と味方する貴族達でございます。

 その者達をこの城で迎え討てと言うのが閣下の命でございます」


 オリヴァーが兄上の戦略を話してくれますが、信じられませんね。

 兄上なら私の秘術をある程度看破しているはずです。

 オリヴァーや騎士隊を派遣しなくても、私一人でドランク王家軍を撃退できると理解していると思うのですが、何か裏があるのでしょうか。

 戦略戦術の問題で私の魔術を秘匿しておきたくて、表向きは騎士隊の手柄にしておくというのならいいのですが、そうでないとしたら……


「分かりました、ですが、この地の領主は私ですから、私の命令は絶対です。

 私の命令に従えないというのなら、今直ぐここを出て行ってください。

 私はウェラン辺境伯家に伝わる秘術を習得しているのです。

 その秘術は、どれほどの忠臣であろうと教えられませんし、悟られるわけにもいきませんから、騎士隊の役目は限られた範囲の警戒と守備だけになります。

 それでも納得できるのですか?」


「全て納得しております。

 閣下からも同じことを申しつけられています。

 私だけでなく、エーファお嬢様の援軍に差し向けられた騎士団員全員が、理解しておりますので、何の心配もございません」


 やはり兄上は私の力をある程度理解しているのでしょう。

 その上でオリヴァーに援軍を率いさせたのは、オリヴァーが私の初恋相手だからなのでしょうね、困った兄上です。

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