第6話:暗闘
「まだ王家は諦めてくれませんか、お嬢様」
「ええ、しつこい事です」
私が新たに手に入れた台所領に戻って以来、王家がしつこく密偵を送り込もうとするのですが、そんな事を許したりはしません。
初日に三十二人もの密偵を殺したのに、全く諦めようとしないのです。
ここに来てからの四カ月で、もう百人以上の密偵を殺しています。
最初に蒔いた麦が、もう実って収穫されました。
「そんな事よりも、次に育てるモノを決めてください。
昔からの実験で、一番収穫量が増える組み合わせは分かっていますから」
私がドニエック公爵家に嫁ぐ前から与えられていた領地、そこでは昔からどのような順番で作物を植えればいいか実験を繰り返していました。
時に魔境の土を運んで来て、どれほど実りに影響するかの実験もしました。
その積み重ねのお陰で、他領の三倍の実りが得られるのです。
「分かりました、直ぐに決めて種蒔きをさせます。
ただ、その前に魔境の土を持ってきたいと思います。
お嬢様の魔獣に護衛を御願い致します」
ここは魔境の影響で穀物の育ちがよく、一年に三度も麦が収穫できるのです。
魔境の土を運んで来たら、寒くて一年に一度しか収穫できない領地に比べれば、同じ広さの畑で九倍の収穫があります。
普通庶民は、製粉する労力がなく粥で食べられる大麦を植えます。
小麦は領主に税金として納める分を育てるだけです。
でもここでは、農民も白いパンを食べる事ができるのです。
「分かりました、魔獣に民の護衛させます。
密偵の処分は、木兵と土兵にさせます」
私は幼い頃からウェラン辺境伯家に伝わる秘術を叩きこまれているので、木や土から兵士を生みだす事も、その兵士を自由自在に操る事もできるのです。
彼らを使って、密偵を始末するのです。
王家がしつこいので、毎日のように人殺しをしなければいけません。
このままでは、王国の諜報力がガタ落ちになってしまいます。
「あら、今度は密偵ではなく騎士団を投入してきたようですね。
正式な訓練を受けた動きをする者達が、ここを伺っています。
姿形は山賊に見せかけようとしていますが、間違いなく騎士です」
「大丈夫でございますか、魔境に土を取りに行くのを遅らせますか」
私が魔獣の眼を通して知った、領地の様子を窺う連中がいる事を聞いたマドリーヌが、先の話をなかったことにするか確認してきます。
正規の騎士が相手でも、私の可愛い魔獣達が負ける事はありません。
ですが、ケガをする可能性はあります。
だとすれば、命のない木兵と土兵に相手させた方がいいです。
「大丈夫ですよ、何の心配もありません、そのままやってください」
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