第5話:調教術

 私はこれでも疑い深い性格をしているのです。

 王家が私に密偵を放っている事はまず間違いありません。

 息子のジュリアスが、ドニエック公爵家の継承権を言い出す事を恐れて、暗殺を謀る可能性があると思っています。

 エレオラ王女を溺愛する王家ならば、それくらいの事はやりかねないのです。


「では、砦の掃除をしてください。

 警備の方は、私の従魔達にやってもらいますから、心配いりません」


「はい、エーファお嬢様」


 兄の騎士隊が渋々帰ってくれたので、秘匿していた魔術を使うことができます。

 国や地方によっては、テイマーや猛獣使いや魔獣使いと呼ばれる職業、獣や魔獣を隷属させて使役する、調教魔術が使えるのです。

 まあ、私には単なる調教ではなく、魅了の才能があるので、弱ったからといって力づくで従えた魔獣や獣に襲われる危険がありません。

 だからこそ、王家や敵対貴族が放った密偵を気にする必要がないのです。


「さあ、みんな、不審な人間がいたら喰い殺していいわよ」


 私は魔術空間で休んでもらっていた魔狼と魔虎、魔犬と魔獅子を自由にしてあげて、砦の周囲をうかがっている斥候を食べてもらう事にしました。

 相手が人間であろうと、私の大切なジュリアスを狙うモノを許しはしません。

 情け容赦せずに、殺します。

 それが魔獣に喰い殺されるという、凄惨な死に方であろうとです。


「エーファお嬢様、開拓途中の場所に種を蒔きたいのですが、宜しいでしょうか?」


 侍女頭のマドリーヌが話しかけてきます。

 私が生まれた時から仕えてくれている忠臣です。

 ここに来る前に話し合っていた事ですが、根株や石が残っている場所であろうと、雑穀ならば種を蒔き収穫する事ができるそうです。

 ですが、まだやれることがあります。


「先に根株と石を取り除いてもらいましょう。

 お前達、根株と石を一カ所に集めてちょうだい」


「ウッホ、ウッホ、ウッホ、ウッホホ」


 魔大猩々が喜んで作業に行ってくれます。

 彼らも私の役に立ちたいと思ってくれていたのでしょう。

 普通の人間と大猩々の筋力差は十倍ですが、人間と魔大猩々の筋力差は百倍もあるので、人間が掘り出せなかった根株や大石も、魔大猩々ならば簡単に掘り出して移動させることができるのです。

 まあ、人間の場合は、経験次第でレベルアップできるのですが。


「では、彼らが片付けた場所から種蒔きいたしましょう。

 彼らが根株や石を掘り返してくれた場所なら、改めて耕す必要もありません。

 そろそろお部屋に入られてください、エーファお嬢様。

 城壁にいつまでもいては身体が冷えてしまいます」


 マドリーヌはいつまでも過保護ですね。

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