第4話:未開地

「ここが私の農園になる場所なのですね」


 私は兄ウェラン辺境伯が治める領地に隣接した、元ドニエック公爵家の領地、私が嫁ぐことを条件に、私の台所領となった場所に来ました。

 それほど広い領地ではないのですが、とてつもなく深く広いダンジョンを持つ、とても厄介な領地なのです。

 本来ならばドニエック公爵家が管理し、魔獣の暴走を抑える責任があります。

 ですがドニエック公爵家はそれを怠り、隣接するウェラン辺境伯領に大損害を与えたばかりか、賠償もしなかったのです。


「このような状態で申し訳ありません」


 私の前には、原生林が伐採されただけの荒地が広がっています。

 まだ根株や石が残っている状態で、とてもではありませんが、耕作することができない状態です。

 ただ、切り出した材木を使って、開拓の根拠地となる砦は築かれています。

 石の城壁ではなく、切り出した生木を使った城壁と、空堀を造るために掘り返した土を転用した、空堀と土塁だけしか防御力はありませんが。


「いえ、謝る事などありませんよ。

 私が嫁いでからわずか二年で、よくぞここまでやってくれました。

 後は私に任せて兄の元に戻ってください」


 兄が手塩にかけて育てた、王国一の精強を誇る騎士隊です。

 もう二度と魔獣の暴走で民が死傷させられる事のないように、私の嫁入りの代償に、将来はウェラン辺境伯領とする約束になっていた土地に派遣され、定期的にダンジョンに入って魔獣を狩っていました。

 時間のある時に原生林を切り出して、農地にしようとしてくれていましたが、二年でできる事など限られています。


「いえ、お嬢様を置いて領地に帰るなど、絶対にできません」


 まあ、隊長ならこう言うと思っていました。

 いえ、この地に派遣されている全騎士が、同じことを言ってくれるでしょう。

 でも、私にも都合というモノがあるのです。

 心から信頼できる騎士達であろうと、まだ私の力を知られるわけにはいきません。

 世の中には、忠勇無比の騎士であろうと自白させる、恐ろしい魔術があるのです。

 それを使われることを前提に、今後の事を考えなければいけません。


「大丈夫ですよ、騎士隊長。

 私には、嫁ぎ先までついてきてくれた、忠義の者達がいます。

 私を慕って、ドニエック公爵家を辞めてついてきてくれた者もいます。

 領民の中にも、この領地にまでついてきてくれた者もいるのです。

 それに、兄は私のために正面から王家と争ってくれました。

 王家の目、恨みは、私ではなく兄に向っています。

 少しでも多くの戦力が兄には必要なのですよ。

 騎士隊長は配下の騎士と従騎士を率いて、一日でも早く兄を護って欲しいのです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る