第3話:介入決着

 兄とドニエック公爵との話し合いは直ぐに終わりました。

 ドニエック公爵は約束通り全ての譲渡証に署名押印しました。

 兄は王都駐屯の家臣を総動員して、ドニエック公爵の動産を、それこそ銅貨一枚残さず自分の屋敷に運び込みました。

 それどころか、信頼できる傭兵と冒険者を大量に雇って、その動産を領都に運ばせるという電光石火の動きをしました。

 これで王都にはめぼしい傭兵も冒険者もいなくなりました。


「ウェラン辺境伯殿、これはいくらなんでもやり過ぎではないかな。

 これではドニエック公爵家が立ち行かなくなる。

 離婚の賠償には、それにふさわしい相場というものがある」


「それは、エレオラ王女殿下をドニエック公爵家に輿入れさせるために、無理矢理離婚させた我が妹を、更に辱めるという陛下のご存念かな?

 ならば私にも貴族としても誇りと意地があるが、それを承知でゲセル侯爵ゴドハルト卿は私に喧嘩を売られてるのかな?」


 後で話を聞いただけで肝が冷え胃が痛くなりますが、王家の意を受けた重臣、ゲセル侯爵ゴドハルト卿と兄の話し合いは熾烈を極めたそうです。

 私に言わせれば、あれは話し合いではなく、脅迫や恫喝と表現すべきです。

 溺愛するエレオラ王女殿下の幸せを一番に考える王家は、兄と戦争をしてでも賠償金を取り戻し、王女殿下に金銭的な苦労させまいとしました。

 兄は隣国の王に主君を変えてでも、家と私の名誉を守ろうとしてくださいました。

 貴族達には冷酷非情な策士と呼ばれる兄ですが、昔から私には甘いのです。


「たったこれだけになってしまったが、これ以上は厳しかった。

 私も領主として、家臣領民を無為に死なせるわけにはいかないのでね。

 だが心配しないでくれ、確保した動産は私が運用して、何十倍にもしてみせる」


 貴族達には冷酷非情な策士と呼ばれる兄ですが、それは敵対した相手に対してだけで、家臣領民にはとても優しいのです。

 今回の件でも、厳しい言動には、多分に駆け引きの要素があったと思います。

 お陰で私には数多くのモノが残されました。

 一つは兄が口にしたドニエック公爵家の動産です。

 名門公爵家が長年かけて蓄えた動産は、それこそ王国予算の十数年分です。

 しかもその中には、お金には代えられない魔道具まで数多くありました。


「いいえ、気にしないでくださいませ、兄上。

 私は兄上の領地に接する未開地をいただけただけで十分でございます。

 あの未開地を開拓して、ウェラン辺境伯家を守る防壁となってみせます」


 私がドニエック公爵家に嫁がなければいけなくなった最大の原因、それが私がもらった未開地にあるのです。

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