第2話:賠償金

「リオンがどうしようもない愚か者なのは、私が子供の教育に失敗したから。

 ヘルミーナの性根が腐っているのは私の責任ではないが、御すことができなかったのは私のせいだ、この通り詫びさせてもらう」


「キィイイイイイ、なにを、ギャゥフ」


 ドニエック公爵ベルトルト卿が、深々と頭を下げて私に謝ってくれています。

 いえ、私というよりは、ウェラン辺境伯家に謝ってくれているのです。

 兄のエトヴィンを本気で怒らせたら、ただではすみませんからね。

 だからこそ、今日まで好きにさせていたヘルミーナ夫人を、歯が吹き飛ぶほどの強さで殴りつけたのでしょう。

 まさか死んでいないでしょうね?


「だがこのヒステリーが言っていたのは本当だ。

 エーファ殿に離婚してもらい、ジュリアスを追い出さなければ、ドニエック公爵家は間違いなく王家に攻め滅ぼされる。

 できる限りの賠償をさせてもらうから、ジュリアスを連れて出て行ってくれ。

 この通りだ」


 ドニエック公爵が再度深々と頭を下げていますし、本気で詫びているようですから、ここは離婚してあげるしかありませんね。

 無理にこの家に残っても、怒り狂った国王が派遣した討伐軍に殺されるだけです。

 母としてジュリアスをここに残していく気は毛頭ありませんが、ドニエック公爵の家督に拘って残したとしたら、娘を溺愛している国王に謀殺されるだけです。

 でもただで出て行く気はありませんよ、ドニエック公爵。


「できる限りの賠償とは、何をしてくださるのでしょうか?」


「全てだ、全てをエーファ殿とジュリアスに渡す」


 ふむ、全てという事は、家屋敷も領地も全部という事になりますが、本気ですか?

 

「本気ですか、全てと言われたら、この家屋敷も、領地も、家宝も、全てですよ」


「その通りだ、全部引き渡す心算だ。

 だが、王家が横槍を入れる可能性があるから、宝物殿にある財宝は全てウェラン辺境伯家の屋敷に運んでおいてくれ。

 領地と屋敷に関しても、ウェラン辺境伯立会いの下で署名押印する。

 王家が横槍を入れてきたら、王家の権限で貴族間で納得した賠償を無理矢理変更させたことになる」


 なるほど、ドニエック公爵はエレオラ王女殿下を逆恨みしているようです。

 全部リオンが悪いのですが、父親としては、もうほとんど全ての貴族令嬢が騙されなくなったリオンに易々と騙され、しかも妊娠までしたエレオラ王女殿下の迂闊さを、恨みたいのでしょう。


 ドニエック公爵がエレオラ王女殿下を恨むのは筋違いですが、私が恨むのなら筋が通ります。

 女を騙して貞操を奪おうとする男など、それこそ掃いて捨てるほどいます。

 口説かれても簡単に身を任せず、独身か既婚者かを確かめるのは常識です。

 まあ、最初から男と遊ぶつもりなら別ですがね。


「分かりました、直ぐに兄に連絡しましょう」

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