第22話:捕虜

 魔獣達から連絡が来たその日のうちに、六千の人質が確保できました。

 翌日には、兄の領地に押し寄せて来ていたモンタギュー王国の兵力、略奪を許すという条件で集められた五万の兵力を、確保することができました。

 兄の領地はとても豊かだ、自由に略奪できれば貧乏な騎士や徒士の領民が豊かになる、そう誰もが誤解したようです。

 いえ、モンタギュー王国のヘンリー国王はわざと貴族や騎士に誤解させたのです。


 ヘンリー国王から見れば、わざわざ正面から戦わなくても、私の領地をドランク王国軍が襲っている間に、休戦を条件に賠償金を手に入れればいいのです。

 兄上に全く落ち度がなくても、こじつけの話であろうと、兄上に非がある事にして賠償金を手に入れられればいいのです。

 領都の莫大な富を略奪できなくても、辺境に村々を襲い略奪できれば、貴族や騎士や徒士の領民兵も喜ぶと思っていたのです。


「兄上、五万の兵全員を捕虜にすればいいのですか、それとも半数くらいは殺しますか、いえ、なんなら全員殺してしまいましょうか」


 本気で五万人を皆殺しにする気はありません。

 それに、どうしても殺す必要があるのなら、ここで殺すのはもったいないです。

 どうせ殺すのなら、ダンジョン内で殺すべきです。

 五万人が死ぬ時の発せられる生命力と遺体は、ダンジョンにとってはいい栄養になり、必要ならば穀物に変換させる事も可能だからです。

 今兄上と私がやっているのは、味方に対する脅しです。

 兄上と私には、五万の兵士を一人で殺せるだけの力がある事を、骨の髄まで分からせておくのです。


「そうだね、全員捕虜にして人質にしよう。

 五万もの民を失ったら、モンタギュー王国は食料の生産にも困るだろう。

 貴族や騎士や徒士の中には、盗賊から民も護れなくなる者もいるだろう。

 それどころか、当主がいなくなった領地に襲い掛かる隣人すら現れるだろう。

 モンタギュー王国内は荒れに荒れるだろうね。

 そんな失政を行ったヘンリー国王は、窮地に陥るだろう」


 兄上が私に話すようなふりをして、味方を脅しながらに言い聞かせています。

 兄上を襲おうとすれば自滅するだけだと、最初で最後の警告です。

 これを聞いても叛旗を翻す者を、兄上は容赦されないでしょう。

 まあ、私も許す気はありませんし、早く国内も国外も落ち着いて欲しいです。

 正直な話、戦など大嫌いですから。


「では兄上、傀儡術でモンタギュー王国軍を捕虜にしたします」


「ああ、任せたよ、私は力加減が苦手で、どうしても殺してしまうのだよ。

 殺してしまったら身代金が手に入らないし、労働力も減ってしまうからね」

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