第12話:ウェラン大公家・エレオラ王女視点

 全ては私の愚かさが原因とはいえ、もう少し譲るのが臣下では……

 いえ、いけません、このような考えだから、臣下に見捨てられるのです。

 高潔と評判の貴族や騎士が全員王家を見捨てたのも、こんな考え方だからです。

 高潔な者達が王家を見捨てれば、当然ですが下劣な者達も逃げていきます。

 金や地位や保身のために、強い者に媚び諂います。

 国境近くの貴族士族は、隣国の王家に従ってしまいました。

 高潔な貴族や騎士は、同盟を組んで王家や隣国に対抗しようとしています。


「陛下、ちゃんとエトヴィン卿に詫びを入れられたのですか?!

 全て私が原因で、偉そうな事が言える立場ではありませんが、このままでは王家が滅んでしまいます。

 エーファ嬢に全てをお返しして、エトヴィン卿と和解できれば……」


「確かに、全ての始まりはエレオラの愚かさにある。

 だが根本的な原因は、余と王家の愚かさだ」


 私の言葉を最後まで聞かれずに陛下が話し始められました。

 私の話を最後まで聞かれないなんて、ようやく私を叱責する気になってくださったのでしょうか、それなら事態が好転するかもしれません。


「余の愚かさも、エレオラの愚かさも全く直っていない。

 よく聞けエレオラ、もうエトヴィン卿と呼ぶことは非礼なのだ。

 ドランク王家を見限った多くの貴族と騎士が推戴して、エトヴィンを大公に戴冠させたのだ。

 お前はいったい何を学んだのだ、エレオラ?

 余に諫言する前に、もっと周りの事を調べたらどうだ、愚か者が!」


 国王陛下から激しく叱責されてしまいました。

 国王陛下からは、今まで一度も叱責された事がありませんでした。

 私が公式の場で諫言したので、臣下として叱責されたのでしょう。

 いつものように慈愛に満ちた目をしてくださっていますが、その中に愚か者に対する苛立ちが含まれているようの思われます。

 ですが、それはしかたのない事、当然の事ですね。

 反省している私に、兄上、イグナス王太子殿下が諭すように話しかけてくれます。


「よく聞くのだ、エレオラ。

 今まで王家がウェラン家に出した使者は一人も帰って来ていない。

 全員が捕虜にされているのだ。

 しかも唯の捕虜ではなく、たぶん使者が望んで捕虜となっているのだ。

 その証拠に、使者の家族をウェラン大公国に移民させるように求めている。

 今のドランク王家は、使者に選んだ者にすら見捨てられる状態なのだよ」


 これが、私の愚行が引き起こした結果なのですね。

 それにもかかわらず、私は陛下を責めるような事を口にしてしまいました、我ながらなんと情けない愚か者なのでしょうか。

 私が何かするたび、いえ、口にするだけで、一生懸命生きている誰かを傷つけ貶めてしまいます。

 私には生きる資格すらないのでしょう、ですが、子を残して死ぬ事もできません。

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