第16話:戦略と不人情

「兄上、見ておられたのですか、お人が悪い」


「わっはははは、すまんすまん、悪意はないのだ、今度こそエーファに幸せになってもらいたい、ただそれだけなのだよ」


 兄上が私の幸せを考えてくださっているのは十分理解しています。

 私が生まれた時に、亡父とドニエック公爵とゲーアト国王が、国のため民のために交わした政略結婚でなければ、兄は潰してくれていたでしょう。

 ウェラン辺境伯家の当主としての責任感が、リオンのような屑との結婚を嫌々認めさせたのです。

 まあ、私が本気で嫌がっていたら、国を巻き込む大戦争を起こしてでも破談にしてくれていたと確信していますが。


「まあ、いいですが、それで、今回はどうされるおつもりですか?」


「分かっているくせに意地の悪い事を聞く」


 兄上の方が意地が悪いと思いますが、まあ、大体の事は分かります。

 国内外で評判になっている私の力を敵味方の前で発揮させようというのでしょう。

 私と同じ魔術が使える兄上なら、隣国の侵攻軍など簡単に全滅させることができますのに、わざわざ私を領地から呼び出したのはその為です。

 私が領地から離れたと聞いた野心ある貴族達は、私が兄の領地の守備で手一杯だと考えて、私が留守にしている領地に攻め込みます。

 私が離れた二カ所同時で魔獣や傀儡を操れると知った彼らは……


「敵対した貴族達は攻め滅ぼすのですか?」


「ああ、一族一門誰一人残すことなく皆殺しにするよ」


 兄上らしいお考えですね、敵対する者には全く容赦ありません。

 ですが、領主一族が滅んだ領地の統治はどうするお心算なのでしょうか?

 ウェラン大公家の家臣団を派遣すると、領地の統治と守備がおろそかになります。

 ああ、兄上はわざとスキを作ってもう一度隣国に攻め込ませるのですね。

 隣国も可愛そうですね、国家を傾けるほどの侵攻を二度も撃退されたら、それこそ亡国一直線です。

 そこに兄上が逆撃をかけたら……兄上が王を名乗るのも直ぐですね。


「ああ、そうだ、殺した領主一族の遺体は、エーファの魔獣に食べさせてくれ。

 逆らったら魔獣の餌にされると知ったら、よほどの覚悟がないモノでなければ、エーファや私に逆らおうとは思わないだろうからな」


「いやでございます、兄上!

 いくら兄上の命でも、私の魔獣に人を食べさせる気はありません。

 どうしても食べさせなければいけないのなら、兄上の魔獣に食べさせればいいではありませんか!」

 

 私は生れて初めて本気で兄上に怒りを覚えました。

 兄上は頭がよすぎて、時々人情や仁義よりも効率を優先されることがあります。

 今回もそうなのかもしれませんが、絶対に許せない事です。

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