第18話:戦時の舞踏会

「エーファ嬢、私とダンスを踊っていただけませんか?」


 この方は某子爵家の傍流の方でしたでしょうか、いい度胸をされています。

 もしかしたら身分をわきまえない馬鹿かもしれませんが、それならそれでかましません、今日集まった貴族家士族家の中で評価を落とすだけです。


「誘ってくださってありがとうございます、では一曲踊らせていただきます」


 多くの貴族家子弟が羨望と蔑みの視線を送って来ています。

 どの貴族家士族家も、隣領の侵攻を恐れて兄上に援軍を送るのを躊躇いました。

 それに純粋に軍事力だけで言えば、兄上に援軍など不要です。

 ただ、どれだけ多くの貴族士族が兄上に味方しているのかを見せつける事は、政治的には大きな問題になるのです。


「もう一曲私と踊っていただけますか?」


 どうやら過剰な自尊心と愚かさが同居している男のようですね。

 自分が魅力的な男だと勘違いしているようです。

 こんな男を家の代表として送ってくるようでは、切り捨てた方がいいかもしれませんね、問題は皆が認める理由ですが、私に乱暴しようとしたがいいでしょう。


「とても残念ですが、今回援軍に来てくださった方全員と踊りたいので、御一人一曲にさせていただいておりますの」


 露骨に不機嫌な表情を私に見せるなんて、本当に愚かで身勝手な男ですね。

 その態度はここにいる全ての貴族士族がみています。

 兄上を推戴する新たな宮廷で、この男の、いえ実家の評価は最低になるでしょう。

 いくら兄上が、貴族家士族家の旗印を持って参戦するのなら、身分を問わず一人でも構わないと言っても、もっと考えて人選すべきでしょう。

 身分を問わず誰でもいいというのは、平民上がりの雑兵であろうと能力のあるモノを送って来いと言う意味なのです。


「マドリーヌ、あちらの方に声をかけてください」


 兄上に言葉の意味を理解して、優秀な領民兵を送って来てくれた騎士家もありますが、領民兵では自分から私をダンスに誘う事などできません。

 そもそもダンスも知らないでしょうから、誘いたくても誘えないでしょう。

 ですから、マドリーヌがその領民兵に私をダンスを誘うように伝えるのです。

 ダンスが全く分からなくても、手を繋ぎ言葉を交わせば性格が分かります。

 人柄がよい者なら、今は領民兵でも兄上や私の騎士に育て上げる心算なのです。


「エーファ嬢、私はダンスを踊った事がございません。

 身分も大きく違いますので、ダンスではなく何かお役に立てることをしたいのですが、それでよろしいでしょうか」


 一番の答えをしてくれましたね。

 自分も主家も恥をかかず貴族士族に目を付けられる事もない、最高の答えです。


「ええ、いいですわ、ダンスは参陣してくださった方への私からの感謝の気持ちですから、他の方法でも構わないですわ」

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