【第28話:可哀そうなもの】
そのまま何事もなく店を出たオレ達は、無事に宿に帰り着くと、そのまま宿の空いている部屋に集まった。
ちょうどリズが寝たところだったので、ダリアナにも来て貰った。
「ふぅ……もう、本当に緊張しましたよ~」
「セグトさん、お疲れさまでした」
「しかし、本当にあんな態度の悪い、強気な姿勢で良かったのですか?」
「ウォマ商会がどれくらいこの宿、もしくは土地を欲しがっているかわかりませんが、これで国の法を持ち出して、何か仕掛けられる可能性は低くなった……と思いたいですね」
あういう輩で厄介なのは、暴力よりも法に基づいて仕掛けられる事だ。
搦め手で法を盾にしてこられると、オレ達では対処しきれないだろうから、挑発して裏で力技で来てもらおうという思惑だった。
これには昨日、それはそれで危ないのではないかと他の手も模索したのだが、結局他に良い案が浮かばず、力技で来てもらって、オレたち『暁の刻』で返り討ちにして力を示す事に決まった。
「そうですね……思いたい、ですね。はははは。それにしても、何か理由をつけて受け取らないとか、ごねたりするかと思ったのですが、驚くほどあっさりしてましたね」
確かにそうなのだ。
これは預けた荷物じゃないとか、何かと文句を言ってくる事も想定していたのだけど、挑発する前にあっさりと受け取られそうになって逆に焦ったぐらいだ。
オレもその理由がわからず、少し考えていると……。
「たぶんだけど……」
そこへ、帰り道もずっと黙っていたミヒメがようやく重い口を開いた。
「間違いなく、彼らは裏で何か仕掛けて来ると思うわ」
そして、その言葉にヒナミも続く。
「だね。あの人……隠してたけど腕にアレがあったもんね」
だけど、どうにも言葉が足りていなくて、言いたい事、そう断言する理由がわからない。
「どういう事だ? もう少し詳しく教えてくれ。アレってなんだ?」
二人が顔を見合わせ、言葉に詰まっていると、今度はオレの頭の上からパズが話に参加してきた。
「ばぅわぅ」
「え……」
「ばぅ~、ばうぅわうぅ」
なるほど……ここでは言えないわけだ。
パズが教えてくれたのは、ミヒメとヒナミの二人がこの世界に呼ばれた理由。
この先に起こるかもしれない『魔王誕生』についての秘密だった。
「ばうわうばうわう? ばぅ~わぅ~!」
「そ、そうなのか!?」
「ばぅ~」
「なるほどな。しかし、そうなると……」
「ばぅわぅ!」
「いやいや。そう言う訳には……」
「ばぅばぅ」
「ほう、なるほど。すると……」
「ばぅ!」
「あぁ! そういうこ……と、か……」
パズから詳しい話を聞きだしていると、不意に視線が集まっている事に気付き、それと同時にダリアナから申し訳なさそうに話しかけられた。
「あの~ユウトさん? その……大丈夫ですか?」
大丈夫って? あ……しまった……。
双子からは呆れた視線を、ダリアナたちからは、何か可哀そうなものを見る視線を送られている事に今頃気付いてしまった。
「あっ、いや、これは違います! いや、ほら? オレ、パズとは主従契約しているから、パズの言葉がわかるんですよ!」
そして、この
そ、そうだよな……この世界の常識から言って、魔物や獣と話が出来るとか、さすがに簡単に信じられないよな……。
「もう~、何をしてるんだか」
呆れて呟くミヒメの言葉が痛い……。
「いや~、はははははは……えっと、セグトさん、ダリアナさん、すみませんが、ちょっとだけ三人だけにして貰っても良いですか?」
これ以上不審に思われるのも辛いので、少し席を外して貰う事にした。
「え、はい。わかりました。ダリアナ、仕込み中だよね? 私も手伝うよ」
「うん。じゃぁ、お願いしようかしら」
仲の良い会話をしながら二人が出ていくのを見送ると、あらためて二人の方に向き直る。
「そ、それで……あのスクロッドとかいう商人が、魔王信仰の信者だって本当なのか?」
「ユウト、本当にパズと完璧に会話できるのね……。でも、その通りよ」
「あの商人さんの腕にね。魔王信仰の信者、しかもかなり本気で信仰している人だけがする紋章の刺青がしてあったの」
「紋章……そうか、あのランプに刻まれていたのって……」
「ん~……実際には少し形が違うんだけど、魔王信仰の証である紋章を元にしたようなデザインだったんだ~」
「あぁ、だからまだ確信が持てないって」
「そうよ。どうせなら紋章そのまま刻印すれば良いのに、まどろっこしいわ!」
とりあえず、スクロッドが魔王信仰の信者だというのが間違いない事はわかったが、しかし、だからと言って何故裏で必ず仕掛けてくると言い切ったのだろう?
「バレないためとか、何かデザインそのまま使えないような事情があるんだろ? それより教えてくれ。どうしてスクロッドが、魔王信仰の信者だからって必ず仕掛けてくる事になるんだ?」
なかなか衝撃的な展開だが、だから必ず仕掛けてくるというのも腑に落ちなかった。
「えっとね~。
魔王の残滓? そんなもの聞いた事ないぞ?
「なんなんだ? その魔王の残滓って言うのは?」
「なんかね。この街って細い地脈の上に建てられてるみたいなんだけど、地脈を使って魔王は封じられているらしくて、魔王信仰の人たちはその残滓を集めて復活を目論んでるの。女神様談だよ」
「女神様談って……しかし、その残滓と地脈とかって、ミヒメたちはわかるのか?」
知識を与えられただけでは、わからなそうな事だったので聞いてみる事にした。
「私たちの体ってね。元の世界の私たちを元にして、新しく作られたものなのよ」
「え? 勇者召喚って、そのままこっちの世界に転移させられたんじゃないのか?」
「ちょっとややこしいし……言いたくないわ。黙秘よ。黙秘……。まぁとにかく、その新しいこの体には勇者として必要な能力が、最初から付与されてるのよ」
なにかミヒメの顔が一瞬寂しそうな表情をしたように見えたが、何か事情があるのだろうか。
今は話したくないようだし、これ以上聞くのはやめておくが、パーティーメンバーになるのだから、いつかは信頼してもらって何でも話して貰えるようにオレも頑張ろう。
「そうか。しかし、そうなると……」
「うん。正攻法……って言うのかな? 十分あくどい方法だったけど、それが通用しないってわかったって事は、次はきっと教団が出てくると思うんだ~」
なるほど。一つの商会としてのやり方で手に入らないのなら、その教団とやらが出張ってくる事は、覚悟しておいた方が良さそうだ。
「しかし、そうなると結構危ない事になりそうだな……」
パズがいれば大抵の暴力は跳ね返せそうだが、強いと言ってもパズは
数で押されたり、隙を突かれると、負ける事は無くても、ダリアナたちを守り切れるかは不安だった。
「だから……行くわよ!!」
え? なんだ? どこに行くんだ?
「行くしかないね!!」
え? だから、どこに?
「ダンジョンに決まってるじゃない!」
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