【第30話:三匹】

 翌日、予定通りに冒険者ギルドにやってきたオレたちは、受付に行くと何故か個室に通され、ギルドマスターが来るのを待っていた。


「こんな個室に通されるなんて、ユウトって意外と顔が利くのね」


「いや……確かにギルマスと会った事はあるが……」


 顔が利くというか、この間一度会った事があるだけなのだがどういう事だろう?

 そんな事を考えながら待っていると、すぐにギルドマスターのガッツイがやってきた。


「呼び出してすまないね。ん? その女の子たちは何者だね?」


 静かにドアを開けて部屋に入ってくると、ミヒメとヒナミの二人の姿に気付いて、そう尋ねてきた。


「えっと、これからパーティーを組む予定の子たちで、今日、冒険者登録して貰おうと思っていたのですがこちらに呼び出されたので……」


「なるほど。そうだったのか。すまないね。それで……その子たちも結構やる・・のかい?」


 オレが一瞬二人に視線を向けてから、


「ん~? 今でも結構強いとは思うのですが、将来有望って感じでしょうか?」


 と説明すると、二人ともちょっと嬉しそうに口を開いた。


「私は美姫よ。隣の桧七美と双子の姉妹で、私が姉だから」


「はーい。妹の桧七美でーす。これからユウトさんとパーティーを組む予定なのでよろしくお願いします♪」


「こちらこそ宜しく頼むよ。しかし、パーティーを組むのか。楽しみだね。それにパーティーを組むならここにいても問題ないか。これから話す事は他言無用だからね」


 先日あったばかりだというのに、いったい何の話だろうか。

 オレは一度頷くと、黙って話を待つことにした。


「実は冒険者ギルドはね。最近、国から一つ、非常に大きな依頼を受けたんだよ」


「国からですか? というか……冒険者に向けた依頼ではなく、ギルドが依頼を受けてる?」


 高難易度の依頼は、冒険者ギルドが仲介して、誰か冒険者に指名依頼を出すという話は聞いた事があるが、国が冒険者ギルドに依頼を出すのか。


「うむ。あまり冒険者には知られていないのかもしれないが、それはそこまで珍しくないんだ。そうだな……例えば街道沿いの魔物の討伐依頼とか定期的に出ているのを知っているかな?」


「あ、はい。オレがいたパーティーでは受けた事はないですが、知っています」


 オレが以前所属していたパーティー「ソルスの剣」は、ダンジョン攻略専門でやっていたので受けた事はないが、街道沿いの魔物の討伐依頼が出ている事は知っていた。


「あれはね。国から『街道沿いの魔物を定期的に討伐して欲しい』という大きな依頼を冒険者ギルド全体で受け、それを各ギルド支部が君たち冒険者に分割して依頼しているんだよ」


 なるほど。

 確かに国から冒険者ギルドへの依頼と言うのは、そこまで珍しい事ではなさそうだ。


 そう思って納得しかけたのだが……。


「まぁただ、今回の依頼はかなり珍しい依頼なんだけどね」


 説明を聞いたそばから否定されてしまった。


 どういう事だろう?


「そうなんですか……あの、それで今回のその珍しい依頼というのが、何かオレに関係があるという事ですか?」


「ふふふ。ちょっと説明が回りくどかったかな?」


「あ、いえ。そう言うわけでは無いのですが……すみません」


「かまわないよ。それに、こう見えて私も忙しい身だからね」


 いや。こう見えても何も、冒険者ギルドのギルドマスターなのだから、誰もが忙しいだろうと思っています……。


「じゃぁ、さっそく本題に入らせて貰おうか。その国からの依頼なんだけどね」


 とそこで言葉を区切り、テーブルの上で何故かぐて~と寝そべっているパズに視線を向けてから、言葉を続けた。


「……魔王信仰の信者どもの内定調査をしているんだよ」


「えっ……」


 まさかここで魔王信仰の話が出てくるとは思っておらず、思わず声が出てしまった。


「それでね。昨日、その内定調査を依頼していた冒険者から、なかなか面白い報告を受けてね」


 あ、なんか嫌な汗が出てきた……。


「その冒険者が言うには、見張っていたとある商会・・・・・がね……丸ごと氷に包まれたって言うんだよ」


「「え……それって……」」


 こういう時だけハモって、オレとパズを見ないでくれるかな……言い逃れ出来なくなるから……。


「えっと……」


 え? これどう答えたら良いんだ……。

 ギルドマスターのガッツイが、どういうつもりで話しているのかがわからないので、その返答に迷っていると、


「ははは。焦らなくても大丈夫だよ。冒険者ギルドとしては、君が突っついてくれたお陰で、ようやく尻尾が掴めそうで感謝しているぐらいなんだ」


 と言って、何かの紙を差し出してきた。


「これはなんですか?」


「まぁ黙って読んでみてくれないかな」


 オレは差し出された紙を受け取ると、後ろから覗き込んでくるミヒメとヒナミの二人と一緒に、その書類に目を通した。


 その紙には、五人ほどの名前と、どのような人物なのかが書かれていた。

 その中にはウォマ商会のスクロッドの名も……。


「これは……この人たちはもしかして?」


「あぁ。察しの通り、魔王信仰の信者たちの名だよ。ただ、ここまでわかっていながら、教団の名前がまだ掴めていなかったり、捕まえるに足るような証拠が掴めていなくてね」


「なんだ。思ったより少ないわね」


「み、ミヒメ!?」


「ははは。やはり君たちは魔王信仰についても、いくらか掴んでいるようだね。五人しかいないのは、これはこの街の有力者の中での信者の一覧だからだよ。実際は、もっと沢山いるはずだし、信者じゃなくても、用心棒や、中には暗殺者を雇ったりしている者もいるから、全部合わせるとかなりの数になるはずだ」


 な!? そんな大規模なのか!?

 ちょっと安易に考えすぎだったか……。


 そう思って反省していると、


「ばぅわぅ!」


 パズが、こっちは勇者が三匹も・・・いるんだから余裕だよ! と伝えてきた。


 うん。励ましてくれるのは嬉しいけど、二人と一匹・・・・・って数えようか。

 まぁでも……冒険者ギルドも動いているし、そこまで悲観する事もないのかもしれないな。


「とりあえず君たちも関わってしまったようだから、一応、注意すべき人物を伝えておこうと思ってね」


「ありがとうございます。でも、オレたちみたいな駆け出しの冒険者に教えても良かったんですか?」


「ははは。情報ってのはギブ&テイクが基本だよ?」


 あ……つまり、こっちも何か情報を掴んだら教えろってことか。


「わ、わかりました。オレ達も何か情報を掴んだらお伝えします」


「うむ。理解が早くて助かるよ。それじゃぁ、私はこれで失礼するけど、ついでだからここで、その子たちの冒険者登録やパーティー登録も出来るように伝えておこう」


「ばぅ!」


 礼を言おうと思ったら、先にパズに言われてしまった。


「なんで、真っ先にパズが返事してるんだよ……。ガッツイさん、ありがとうございます」


 この後、部屋で手続きをして貰い、三人と一匹になったオレたち『暁の刻』は、冒険者ギルドを後にしたのだった。

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