【第29話:あげておとす】
「ダンジョンに決まってるじゃない!」
立ち上がって、明後日の方向を指さすミヒメに、ノリで真似をするヒナミ。
「……ちょ~っと待とうか? どうしてダンジョン行きが決まってるんだ?」
「ユウトは察しが悪いわね。私たちが実力付ければ、教団なんて怖がる必要なくなるじゃない!」
「だね~。だからレベル上げだよ! レベル上げ♪」
「で! レベル上げと言えばダンジョンでしょ!」
でしょ! って言われても困るんだが、レベル上げってそもそもなんだ……?
ゲームじゃあるまいし、何を言っているんだ?
「その、ゲームみたいにレベル上げって言われてもな。まぁダンジョンで魔物いっぱい倒して強くなるってのは賛成だが」
魔物を倒せばステータスがアップするのは確かだから、これをレベル上げと言うのも間違ってはいないんだろうな。
そう思っていたんだが……、
「何言ってるのよ。この世界の人間は、いいえ、この世界の生物は、みんなレベルで基本的な強さが決まってるのよ?」
と、驚きの話が飛び出てきた。
「……は? ……本当にゲームみたいにレベルがあるのか!?」
思わずパズの方に本当かと視線を向けると、右前足をあげて肉球を見せてきた。
え? これは本当って事か? わからん……念話で答えてくれ……。
「ちょっと~っ!? なんで、そこでパズに聞くのよ!?」
「あ、いや、つい……しかし、そんなゲームみたいにレベルがあるとか、本当なのか?」
「私も最初話を聞いた時はびっくりしちゃったけど、あるみたいだよ。で~、私も美姫もレベル1だから~、ここはやっぱりレベルあげないとでしょ~?」
二人がこの世界のどの辺りに召喚されたのかはまだ聞いていなかったが、本当にここまで全ての魔物から逃げてきたんだな……。
この世界で旅をすれば、魔物との遭遇戦は避けられないものなのだが、もしそのレベルというものが存在するのなら、きっとレベルに対しての基礎能力が異常に高いのだろう。
普通は魔物の方が体力があるし、足も速いものが多いので、徒歩だと中々逃げ切れるものではない。
「あ、ち、ちなみにだが……その、オレのレベルはいくつなんだ?」
こう、レベルがあるとか聞かされるとやっぱり自分のレベルが気になるわけで……。
「そんなのわからないわよ?」
「え? 自分のレベルしかわからないのか? その、前世の物語とかだと勇者は他の人のステータスを確認できたりしたから、てっきり……」
そうか、わからないのか……ちょっと、いや、かなり残念だ。
「えっとね。ユウトさん、一応そういう能力は授かってるんだけど、自分のレベルより低い人しかわからないの」
それじゃぁ、二人がレベルをあげたらオレのステータスもわかるのか!
と、内心ちょっと喜んだのだが……。
「ちなみに勇者って、すっごいレベルがあがりずらいから、一緒に行動している限り、ユウトのステータスは見れないと思うわよ」
上げて落とされた……。
「あっ! じゃぁパズは?」
そう思ってまたパズに視線を向けたのだが、今度は左の前足の肉球を見せてきた。
うん。さっぱりわからん。
なにこれ? パズの中で流行ってるのか?
とりあえずパズもレベルがあがりにくいっぽいな……。
「パズも無理なんじゃない? だって、『カッコイヌ』なんでしょ? 私たちと一緒でレベル相当あがりにくいんじゃない?」
「ばぅ♪」
ミヒメとしてはちょっと揶揄ったつもりだったようだが、パズは『カッコイヌ』と言われて喜んでいた。
カッコイヌがついてるから自分のが上だとか言ってたしな。
「と、とにかく! 私たちだけじゃダンジョンはちょっと不安だったんだけど、ユウトがいるなら……その、大丈夫かなって……」
ちょっと恥ずかしいのか、ミヒメはほんのり頬を朱に染めてそんな事を言ってきた。
「まぁそう言う事なら、ちゃんと低ランクの冒険者向けで、安全な狩場もあるらしいから任せてくれ」
「らしいから~?」
う……ヒナミに突っ込まれたが、そうなんだよな。
オレって、いきなりCランク向けの狩場に連れていかれたから、低ランク向けの狩場って行った事がないんだよな……。
仕方ないので事情を包み隠さず話した。
ちょっと情けない……。
「ユウトさんも苦労したんだね。でも、今はそのCランク向け? のダンジョンで戦えるぐらいにはなってるんだ~」
「あぁ、パズのサポートもあったから、なんとか戦えたよ」
そもそもパズと主従契約を結んだ時にステータスが大きくアップしたから、かなり余裕があった。
今なら、少し下のランク向けのダンジョンなら、問題なく戦えるだろう。
「そうだ。冒険者ギルドに行けば、どこが良いかアドバイスを貰えると思うから、明日、二人の冒険者登録をする時に聞いてみるか」
パーティーを組むことになったので、二人にももちろん冒険者登録をして貰うこになっている。
明日の朝、その為に冒険者ギルドに向かう予定になっていたから、その時に一緒に教えて貰おう。
「やった♪ じゃぁ、ユウトさん、明日はよろしくね!」
「で、出来るだけ、気持ち悪くないのとか、怖くないので頼むわよ……」
ミヒメは普段強気な癖に、ちょっと怖がりだよな。
そしてヒナミが意外と平気だったりする事に、少し面白いなと思った。
「ばぅわぅ!」
僕がいるから大船に乗ったつもりで! らしい。
「なんであんたが、どや顔で返事してるのよ!」
ヒナミは突っ込んでるが、こと戦闘に関してはその通りなんだよな。
まぁとりあえず、こっちの確認はこんなものかな?
そう思っていると、
「あれ~? お兄さんにお姉さんたち、ここで何してるの~?」
扉をちょこっと開けて、眠そうな顔をしたリズが覗き込んでいた。
とりあえず直近の方針は決まったし、魔王信仰については後でパズにでも詳しく聞けばいいし、ダリアナたちとはオレが詰めておくか。
オレは「なんでもないよ」と言ってリズの頭を撫でてやると、そのまま一緒にダリアナたちの元へと向かったのだった。
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