【第31話:可愛い?】
街を出てやってきたのは、低ランク冒険者向けの遺跡型ダンジョン『ルテカ』だ。
まぁオレは初めて来たけど……。
「さ、さぁ! いよいよダンジョンよ!」
「美姫、震えてるよ~?」
よく見ると、確かに強気な言葉とは裏腹に、ミヒメが少し震えていた。
怖いというより緊張しているという感じだろうか。
「う、うるさいわよ!? 桧七美はたまに余計なこと言うんだから!」
「まぁ、ここはEランク向けのダンジョンだから、そこまで緊張しなくても大丈夫だ。たぶん」
「ちょ、ちょっとぉ!? たぶんって何よ!?」
「いや、だってオレも来るのは初めてだからさ」
「そこは嘘でも言い切りなさいよ!」
まぁ、確かにそうか……。
「うん。大丈夫だ」
「今さら遅いわよ!?」
いったいどうしろと……。
「ふふふ。ユウトさん、美姫ってこう見えて、すっごく怖がりだから許してあげてね」
「ひ、桧七美~……もういいわ。でも、わかったから、その、色々教えてよ?」
ヒナミにまで言われてとうとう観念したのか、顔を真っ赤にしながらも、そう言って頼んできた。
「あ、あぁ。出来る限りサポートするつもりだから、一緒に頑張ろう」
何気に二人ともアイドル並みの美少女だから、真正面から頼まれるとちょっととぎまぎしてしまう……。
「でも、パズがいないから油断しないようにしないとだね~」
そう。今ここにはパズはいない。
実は冒険者ギルドを出た後、パズには宿に戻って貰って、何かあった場合に宿の皆を守ってくれるように頼んだのだ。
今更だが、色々と考えが甘かったと反省している。
予想以上に教団とやらの規模が大きいようなので、皆で話し合った結果、せめて最高戦力のパズは残しておこうという事になった。
「そうだな。でも、こいつらがいるし、心配ないさ」
その代わりに、ここには筋肉マ……ウォリアードッグたちがついて来てくれていた。
「「「「がう!」」」」
首に赤い従魔の証を巻き、嬉しそうに尻尾をぶんぶん振っている。
「……パズの眷属だし、結構強そうだとは思うんだけど、もうちょっとその息遣いはなんとかならないの?」
「え~? でも、結構可愛いよ?」
さすがにオレも可愛いとまでは思わないが、慣れてくると結構愛嬌があって悪くないと思えてくる不思議。
「頼りになる奴らなんだ。そんな邪険にしてると、いざという時に助けて貰えないぞ?」
「う……悪かったわよ……」
ミヒメは、ちょっと頬を引き攣らせながらも、ちゃんと四匹を見て謝った……のだが、ウォリアードッグたちはよくわからなかったみたいで、揃って首を傾げていた。
「……」
「さ、さぁ、いつまでも入口で話していても仕方ない。さっそく行くとしようか」
今回は、ウォリアードッグたちの案内ではなく、自分の足で進んでいく。
ウォリアードッグたちがこのダンジョンの道を把握していないというのもあるが、そもそも今回はサポートだけを頼んでおり、基本的にはオレとミヒメとヒナミの三人だけでダンジョンを進むことにしている。
もちろんこれは、オレたちに一番足りていない冒険者としての経験を積むためだ。
「き、緊張するわね……」
「とりあえずはオレが先頭を歩くが、敵は前からだけ襲ってくるわけじゃないからな」
「ふふふ。それはさっきも聞いたよ~」
「そ、そうだったな」
なにかこう、ミヒメがガチガチに緊張してるから、オレまで変に緊張してしまっている気がする。
今まで通ったいくつかのダンジョンと比べても、ここは推奨ランクの低いダンジョンなんだ。
普段通り行動することだけを考えていこう。
「まぁとにかく、低ランクのダンジョンだからと油断せずにいこう」
遺跡型のダンジョン『ルテカ』は、古い遺跡が長い長い年月をかけて風化し、朽ちてダンジョン化したと言われている。
そのため、ここには道らしい道はなく、草原が広がっているだけなのだが、遺跡の残骸がいたるところに散乱しており、それらが視界をふさぎ、簡単には前に進めないようになっていた。
そんな中を暫く進んでいると、崩れ落ちた石柱から一つの影が飛び出してきた。
「わ!? さっそく現れたよ!」
そしてギルドで貰った情報によると、ここに現れる魔物の大半は……。
「ゴブリンだ! まずはオレが行くから見ていてくれ!」
オレは背に括り付けていた霊槍カッバヌーイを手に取ると、現れたゴブリンにめがけ、そのまま駆け出した。
ゴブリンとは人間の子供ほどの大きさの醜い人型の魔物で、力も知能も非常に低く、魔物の中ではかなり弱い部類に入る。
だが、群れでいる事が多い事と、粗末な武器を持っていることがあるので、その点だけ注意が必要だった。
まぁ今回はどちらも当てはまらず、武器も何も持たない普通のゴブリン一匹だけだったが。
「はぁぁっ!」
気合いと共に突き出した槍が、ゴブリンの反応速度を超え、何もさせることなく胸を穿つ。
「ギャ!?」
そして、短い苦悶の声をあげて崩れるゴブリン。
一撃で仕留めたオレは、一度油断なく周りを確認してから、手際よく胸の魔晶石を取り出すと、二人の方に振り返った。
「こんな感じだ。ゴブリンは素材は売れないから、魔晶石だけ取り出せば……って、どうした?」
二人ともぽかんと口を開けて、こちらを見ている事に気付いて話しかけると、ようやく慌てて言葉を返してきた。
「ゆ、ユウトって、初心者じゃなかったの!? なによ! 今の動き!?」
「そ、そうだよね。槍なんてパズと出会ってから使い始めたって言ってたよね? 私驚いちゃったよ~」
「槍はなんか適性があるらしくてな」
そう言えばパズは最初、オレのステータス見れたんだよな。
オレがレベルあげする前に、もう少し詳しく聞き出しておけば良かった……。
「それにその後も何よ!? 魔晶石を取り出すの、早業すぎじゃない!?」
「冒険者歴は三ヶ月だが、魔晶石取り出すのは全部オレが一人でやってたからな……」
やめてくれ……その質問はオレに効く……。
「と、とにかく、二人のいた世界の事は前世の記憶でわかっているつもりだが、まずは魔物を倒す事への忌避感を克服することかな?」
ここへ来る前に少し見せて貰ったのだが、正直、二人の身体能力ならゴブリンなど相手じゃない。
二人のレベル上げも大事だが、当面の課題はこの忌避勘の克服なんじゃないかと思っていた……のだが……。
「なんだ! 楽勝じゃない!」
「だね~♪ ゴブリン相手なら無双ゲーム出来そう♪」
さっきのゴブリンの後、何匹か戦って貰ったところ、克服も何も、最初から全く平気そうだった。
「なによ?」
「いや。この世界で生まれたオレでも、初めて魔物を倒した時はちょっと気持ち悪くなったんだが、二人があまりにも平気そうだから……」
「えっとね。たぶんだけど、勇者として精神耐性が付与されてるらしいから、それのお陰かも?」
「な、なるほど……」
結果的にはオレの心配は杞憂に終わったので良かったのだが、ちょっと複雑な気分だ。
「ふふふ。ユウトさんが気にする事ないよ~。それより、レベルあげ頑張ろう!」
「変に気を使わないで! 私たちが気にしてないんだから! ……でも、ありがと」
「そ、そうか。じゃぁ、この調子で頑張ろうか」
ちょっとミヒメのお礼の言葉にドキリとしながらも、オレは次の獲物を見つけるため、足早にその場を後にしたのだった。
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